【PR】世界の最先端「サステナビリティ&DX」に企業はどう向き合うべきか―前編:エネルギー分野でいま何が起きているのか
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2015年に国連サミットで採択されて以来、国際社会にとって無視できない指標となっているSDGs(2030年までに達成を目指す持続可能な開発目標)。日本企業にとっても、その活動の核に「サステナビリティ」を据え、いかに社会的課題の解決につながる事業展開をはかるかが責務となっている。
さらに無視できないのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の世界的潮流だ。いまやサステナビリティがDXを促進し、DXがサステナビリティを加速させるという相関・相乗関係にある。その最前線の動向と日本企業に迫られている課題について、世界最大級の国際法律事務所である「ベーカー&マッケンジー法律事務所」のギャビン・ラフテリー共同代表パートナーをファシリテーターとして迎え、「前編」ではエネルギー分野について同事務所の田邊政裕弁護士に、「後編」ではスマートシティやスタートアップ投資について蜂須賀敬子弁護士に語ってもらった。
ギャビン・ラフテリー:「脱炭素化」については今年11月に開催されたCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)でも世界の対応が注目されましたし、すでに日本政府も2050年までのカーボンニュートラル(脱炭素)を宣言しており、この流れはさらに加速するでしょう。
それに伴い、企業には環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に留意した「ESG投資」の取り組みがますます求められています。実際、EUではすでに従来の財務情報以外にESG関連情報の開示が企業に義務化されていますし、アメリカでも審査や調査が強化されています。この流れに日本企業はどう対応すべきでしょうか。
田邊さんはESGのなかでもとりわけ環境=電力・ガス・再生可能エネルギーに関する案件が専門ですね。エネルギー分野の世界の潮流はいまどうなっていますか。
田邊政裕:エネルギー分野では、技術のイノベーション(革新)と社会の変化によって、いままさにエネルギーそのものが従来と変わるトランジション(転換)が起きているところだと実感しています。その中心は太陽光、風力などの再生可能エネルギーですが、エネルギー業界のシステムそのものも大きく変化しつつあります。たとえていうなら、かつて情報分野がテレビからインターネットに取って代わったほどの大転換です。
この流れには、「脱炭素化」と「デジタル化」という大きな2つのキーワードがあります。脱炭素化の技術も大いに革新が進んで再エネのコストがどんどん下がっており、そこにこれまでになかったデジタル化の技術も取り入れられ、新しいビジネス、テクノロジーが生まれています。
ラフテリー:「デジタル化」とは、具体的にどういうことでしょうか?
田邊:太陽光や風力でつくったクリーンなエネルギーを消費者に届ける際の届け方がまず変わりました。たとえば、従来だと特定の場所に大規模な原子力発電所を何基か設置し、そこから電気をまとめて都市部に送る。これが再エネの場合、全国の様々な地域に太陽光や風力発電施設ができて、その電力をみんなでシェアしましょうという発想になり、そのための技術としてデジタルが活用される。発電側から消費者への流れだけだったものが、グリッド、つまり発電所から消費者に電気を送るインフラやそのシステムの部分にデジタル技術を活用することで、発電施設から消費者へ、あるいは消費者から発電施設側へと、2ウェイの流れにもできる。双方向性ですね。電力をもらうだけではなく、使ったり発電したりシェアしたり、という流れ。
わかりやすい例でいうと、自宅の屋根に設置したソーラーパネルで自家消費の電力をつくり、余った電力は売る。あるいは足りなければ、隣の家から買うというシェアリングも。プロシューマー(生産消費者)という言葉がありますが、まさにそれがグリッド=送電線関連のデジタル技術革新で実現しているというのが世界の現状です。
ラフテリー:日本の現状はどうでしょうか?
田邊:進んでいるのはヨーロッパとアメリカ、それにオーストラリアです。すでにビジネスとしても活発化しつつあります。日本の場合は、それがいま始まろうとしている、という段階でしょうか。
たとえば最も先行しているドイツでは、個人が自分の家のソーラーパネルで発電した電気をスマホで手軽に売買している。あたかも株の売買をスマホでやるような感覚ですね。そうした電力売買の市場環境も整備されています。逆にいえば、日本はまだこれからです。これまで日本にはなかった新しいビジネスですから、法律面でもまだ未整備なところがあるため、いまある日本の法律の枠内でどうやって取り組んでいけば良いのかという相談を多くいただいています。
ラフテリー:では、日本企業はどう取り組んでいけばよいのでしょう?
田邊:たとえば、バーチャルパワープラント(VPP=仮想発電所)という新しいビジネスが日本でも生まれようとしています。各地にある太陽光や風力などの再エネ、さらには蓄電池などをIoT(モノのインターネット)でつなげ、巨大な仮想の発電所をつくるわけです。それぞれの規模は小さくても、それらをIoTでつないでしまえば、仮想ではあっても原発数基以上の規模としてみなしましょう、という発想です。
電力を買う側の企業にも、最近では再エネのようなクリーンな電力を求めるところが増えています。しかし、従来のように普通に買っているとそれがクリーンエネルギーかどうかわからないため、再エネに特化しているところから買おうとする。この動きは世界でも顕著です。これは「コーポレートPPA」といって、企業や自治体などが直接、発電事業者から再エネの電力を長期的(通常は10〜25年)に購入する契約のことで、すでに欧米では当たり前になっており、日本でも始まっています。
日本でも、必要な電力をもっと自由にいろんな再エネ発電事業者から買えるようになると、今後どんどん広がっていくビジネスになると思います。そうなることで、日本政府が掲げるカーボンニュートラル、ネットゼロに近づける手助けになるでしょう。
ラフテリー:なるほど。その話の中では、「スマートメーター」と「データセンター」というキーワードがサステナビリティとDXとのど真ん中にありますね。
田邊:まさにそのとおりで、スマートメーターを通して電力消費の傾向を自動分析して見える化し、さらに通信機能も持たせて電力消費側と発電事業者を結ぶ。デジタル技術によってこれが可能になり、省エネの可能性が大きく広がりました。今後、デジタル技術がさらに進化すればより詳細なモニタリングも可能になり、機器同士が会話するように接続されることで電力の消費や調達が最適化されることにもつながります。
また、統計データを統合的に活用するデータセンター(クラウド)のビジネスも重要ですね。データセンターでは当然ながらサーバーなどICT(情報通信)機器で膨大な電力需要が避けられない。ここでの省エネ化も重要ですし、従来の電力を使用し続けていてはサステナビリティになりませんから、いかに再エネ電力の比重を大きくするかという面でコーポレートPPAが要となり、実際にデータセンター事業者がそうした潮流を牽引しています。今後はそこにもデジタル技術の革新が必要ですし、新たなビジネスチャンスも生まれてくるはずです。
そうした電力需要家、つまりデータセンター事業者はもちろん、クラウドを使って大きな事業を展開している日本企業などは、どうやったら日本国内で安定的にクリーンな再エネ電力を調達できるかということに悩んでいます。日本企業でも、たとえばアメリカなどにある海外拠点ではクリーンエネルギー100%かそれに近い調達を達成しているのに、日本国内ではそれがまだなかなかできない。理由の1つは、法制度が違うために海外でできていることができないこと。法制度を変えることは簡単ではありません。では現状の日本の法制度でどうやったら海外拠点のレベルに近づけられるか。こういうスキームで構築していけば、アメリカでのコーポレートPPAに近いことができますよ、といったご提案などのサポートが私たちの仕事になります。
発電事業者にも、私たちはいろいろなサポートをしています。従来は、国の固定価格買取制度(FIT制度)というものがあり、発電した電気を固定価格で買い取ってもらえたわけですが、それがだんだん縮小されてきて、いまや発電事業者もどうやって電気を買ってもらうかということを自分たちで考えなければならない時代になってきた。そこでもやはりさまざまな法制度が障壁になるケースがありますので、新たなビジネスモデルを構築するためのスキーム提案などのお手伝いも行っています。細かいことをいえば、これまで日本には存在しなかった契約形態、契約書が必要になってきますので、弊所のような世界中に拠点がある事務所ですと、各国のケースを参考にしながらサポートをすることができます。
ラフテリー:サステナビリティとDXという点では、電力のつくり方、使い方の両方の面で、EV(電気自動車)の重要性がますます高まりそうですね。
田邊:エネルギー業界で、EVはいままさに世界のホットトピックです。エネルギーの観点でいえば、EVというのはそれこそ「走る蓄電池」ですから、これを使わない手はないだろうと。再エネはどうしても自然頼みの面が大きいわけで、それをいかに効率的に使うかには、蓄電池が今後の大きなカギになっていく。ならば世の中に蓄電池がどれだけあるかとなると、いっぱい走っているじゃないかEVが、と。できるだけたくさんのEVがコネクトすれば、電気を貯めて放電する“道具”になる。そうすると系統も安定し、もっと再エネを活用できる、という発想です。
先ほど述べた、家庭の屋根にあるソーラーパネルでつくった電気のシェアもできるという2ウェイの発想と同じように、EVでも、電気をチャージしつつ、同時にその蓄電池にチャージされた電気をグリッドに送るという2ウェイも可能になる。現状のEVの蓄電池は車を走らせることが主目的になっていますが、ならば停まっているときにもっと活用できるのではないか。統計では、車というのは約90%は停まっている時間だといわれています。その時間にEVをグリッドにつないで電気を売ったり買ったりする道具にしたらどうなるか。極言すると、EVは停まっているだけでお金になるということになる。そういうビジネスも大いにあり得るわけです。たとえば、EVを個人で所有するのとは別に、100台とか1000台とかを企業がまとめて所有し、車として使う人にはシェアリングなどのビジネスとして一部を貸し出し、大半は電気売買の道具として活用するビジネスもあり得るかもしれません。
ラフテリー:それ自体がまったく新しいビジネスモデルですし、そのためのインフラ整備でもビジネスが生まれるでしょうね。
田邊:もちろんインフラには大きな投資が必要ですし、ビジネスチャンスにもなる。ただそのためには法制度の整備も必要です。海外では実現できそうでも日本だと法制度としてできない、という問題もありますから。ただ、そのままではできないけれど、スキームをこういうふうに工夫すればできるという場合もある。そういう調査、お手伝いは私たちができることではないかと思っています。
―世界のエネルギー分野では、まさにサステナビリティとDXの相乗効果によって目覚ましい進化が遂げられつつある。この流れに日本企業は乗り遅れることなく、新たなビジネスチャンスをつかむ模索とチャレンジがますます必要となるだろう。
ギャビン・ラフテリー
「ベーカー&マッケンジー法律事務所」のファイナンス&プロジェクトグループパートナーであり、現在東京事務所の共同代表パートナーを務める。また、グローバル・フィンテック・イニシアチブの共同代表。オーストラリア、イギリス、日本の金融法務に経験を有する。Chambers、Legal 500、『International Financial Law Review (IFLR)』誌に、日本の銀行および金融・フィンテック分野で活躍する優れた弁護士として掲載。
田邊政裕
「ベーカー&マッケンジー法律事務所」のファイナンス&プロジェクトグループに所属。国内・海外をあわせて15年以上の実務経験を有する。アメリカで育ち英語に堪能。日本とニューヨーク州の弁護士資格を有する。2021年版Legal 500では日本のプロジェクト&エネルギー分野で「Rising Star」に選出された。