■投資先に困った富裕層

 2020年、新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)の期間中、オンライン形式の競売の数は爆発的に増加した。

 コロナ禍にもかかわらず株価が急騰する中、富裕層は資産を著しく増やす一方で投資先に困り、競売に目を向けるようになった。そうして、美術品の古典的名作が次々に高値を更新する結果につながった。

 収集熱は美術品以外にも広がっている。例えば、米プロバスケットボール(NBA)のレジェンド、マイケル・ジョーダン(Michael Jordan)が現役時代に着用したシューズに150万ドル(約1億7000万円)、米国憲法の原本1部に4300万ドル(約49億円)の値が付いた。

「多くの美術品の販売会で客を入れられず(中略)、販売形態の中心はオークションになっています」と、美術業界紙アート・ニュースペーパー(The Art Newspaper)の市場担当記者アンナ・ブレイディ(Anna Brady)氏は話した。

 最近、競売に大量につぎ込まれている資金は、ここ最近台頭した仮想通貨長者によるものだという。こうした人々は当初、デジタルアートに注目していたが、従来型の作品にも触手を伸ばし始めている。

 仮想通貨界の「クジラ(巨額な資金を動かす投資家)」として知られるジャスティン・サン(Justin Sun)氏は今年、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)とアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の作品を購入。11月に入り、アルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti)の彫刻「鼻(The Nose)」を7840万ドル(約89億円)で競り落とした。

 サン氏はツイッター(Twitter)で購入を自慢し、保守的な美術関係者の不興を買ったが、落札者名を非公開とする慣例を破ったことで、アート市場ではさらなる競争の過熱が予期される。