【11月6日 CNS】中国・上海市黄浦区(Huangpu)の古い街並みが残る老城廂(Laochengxiang)地区に、73歳の馮順成(Feng Shuncheng)さんが営む「小広東楽器修理舗」がある。「タニシの殻で作った」と自称する10平方メートルの小さな工房は、壁一面に多くの楽器がつるされている。22年間、楽器の修理を続いている馮さんは上海の有名な楽器修理業者であり、海外の旅行雑誌にも紹介されている。

「小学校5年生の時、父がピアノの調律をしているのを見て、私も道具を見つけてまねをしたらピアノを壊してしまった。母は私をしかって、すごく悲しんで涙を流していました。それ以来、楽器の修理を学びたいと思うようになりました」。そう振り返る馮さんは若い頃、ギターの演奏が得意だった。「世界を知りたい」と考えオーストラリアでギター学校に通い、楽器の制作と修理を学んだ。卒業後は南アフリカやタイ、香港などを転々し、上海に戻って1999年に楽器修理店を始めた。

「音楽仲間以外、私のことは誰も私を知らない。最初はファクスやコードレス電話機を修理し、ついでに楽器を修理する程度でした。次第に楽器の修理が評判になり、専念できるようになりました」

 500年間受け継がれてきた月琴、米国の初代ギブソンギター、インドの古琴…。馮さんが扱ってきた楽器の総数は1万件を超え、海外からも含めて数え切れない人々が職人の技を求めて店に訪れる。

 馮さんが一番印象に残っているのは、ある少女が持参したバイオリンの修理という。持ち主だった祖父が亡くなった翌日、トラブルでバイオリンが壊れてしまい、少女はとても悲しんでいた。

「バイオリンはバラバラ。上海の他の店は修理できないと言っていたが、1か月以上かけて修理しました。バイオリンを引き渡した時、音色を聴いた彼女は涙を流した。亡くなった家族が残した物はとても貴重ですよね」

 馮さんは「急ぎの注文」は受け付けず、責任を持って一生懸命に心を込めて修理しているという。「私は楽器を新品のようには復元しません。古い味わいを残すのです。私はすべての楽器に責任を持って丁寧に修理したいから、急ぎの注文を受け付けないこともお客さまは理解してくれます。楽器はみんな生きているように感じ、触ると体温を感じます」

 都市開発が進む上海で、馮さんの店も移転が必要となった。下町の老西門(Laoximen)にあるお茶の専門店が集まったショッピングセンター「古玩茶城」の2階に移る予定だ。新しい店も小さいが、それが馮さんにとってお気に入りの「味」だという。

「海外の有名な工房もみんな小さいんです。この雰囲気がとても好きなので、拡張したり人数を増やしたりしたくない。この仕事は楽しくて全く疲れを感じない。体が動かなくなるまで続けます」。馮さんは満足げな笑みを浮かべて語った。(c)CNS/JCM/AFPBB News