■哲学の修士号を取得

 30年に及ぶ墓掘りの仕事で、カンディドさんは3000人以上を埋葬してきた。

 だが、死に対する心構えができている人はほとんど見たことがないと話す。「死には大きな敬意と配慮と静粛が必要です」

 緑の多い墓地を散策しながら、カンディドさんは哲学に行き着いた経緯を振り返った。

 ボクサー、窓拭きの仕事を経て、サンパウロのバンデイランチ大学(Bandeirante University)でドイツ語を学び始めた。すべてはそこから始まった。

 文学が好きだったが本を買う余裕がなく、何冊か譲ってもらった。「それから私は哲学を勉強することにしました。とても自分に合っていると感じました」と穏やかに話す。

 墓掘りの仕事のために勉学の道は一度諦めたが、奨学金のおかげで、最終的に同じくサンパウロにあるマッケンジー・プレスビテリアン大学(Mackenzie Presbyterian University)で哲学の修士号を取得し、卒業することができた。その間、電子メールでフランスの哲学者ジャン・ボードリヤール(Jean Baudrillard)氏とも意見を交換した。

 カンディドさんが今、死を真正面から見据えることができるとすれば、それはすでに第二の人生を歩んでいるからだ。カンディドさんは今は哲学の教師でもある。夕方になると、死体解剖に関わる仕事をしている若者に倫理学を教えている。

 普段は午前3時に起床する。現在、3巻から成る哲学書を執筆しており、このうち2巻は新型コロナがテーマだ。

「哲学のおかげで私は成長し、自分の殻から抜け出して、他者や他者の考え方を理解して考えられるようになりました」とカンディドさんは言う。「大きな一歩でした」 (c)AFP/Florence GOISNARD and Pascale TROUILLAUD