【10月5日 東方新報】桑の樹皮で作った紙、竹の表皮や繊維を使った紙、雁皮(がんぴ)の木を原料として経典を書き記すのに使われたトンパ紙、かつて皇帝が収蔵した書籍に使われた磁緑紙…。

 中国・北京市東城区(Dongcheng)の路地裏に、中国の伝統的な手すき紙を集めたギャラリーがある。訪れた人たちは、壁一面にかけられた色とりどりの紙の見本に目を奪われる。ギャラリーは楊波(Yang Bo)さんと崔振碩(Cui Zhenshuo)さんが運営。2人は新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)、チベット自治区(Tibet Autonomous Region)、雲南省(Yunnan)、貴州省(Guizhou)、広東省(Guangdong)など中国各地の工房を訪れ、数百種類の伝統的な紙を収集し、販売している。

 2人が手すき紙にかかわったのは2018年からで、最近のこと。それまではイベントの展示や倉庫管理の仕事にかかわっており、ある手すき紙の展示イベントにかかわった際に伝統的な紙の魅力に触れた。また、その会場で「紙作りの名人」と言われていた人が実際は作業をしておらず、雇われた職人たちが作っていることを知り、「手すき紙の文化と職人を守りたい」という思いにかられたという。

「未知の紙に出会うたびに感激し、それが次のモチベーションにつながっています」と楊波さん。チベットの手すき紙は「1000年経っても古びない」といわれる。ギャラリーを訪れる人々は、長い歴史の中で無数の職人たちが作り上げてきた作品に感銘を受けている。

「現在の中国で集められる限りの手すき紙をそろえています」と崔振碩さん。2人は今、手すき紙を体系的に保存・記録するために「中国手すき紙図鑑」を制作。完成した第1巻は30枚の紙のサンプルが入っており、全10巻の発行を目指している。

 中国では近年、手すき紙の復興や再評価の動きが進んでいる。

 浙江省(Zhejiang)開化県(Kaihua)では、明・清代に書籍の印刷で用いられた高級紙「開化紙」が復活した。きめ細かくしっとりとした紙質で、薄さと強さを兼ね備えているのが特徴。清朝の康熙帝の命により編さんされた漢字字典「康熙字典」や、乾隆帝の勅命により編さんされた中国最大の漢籍叢書「四庫全書」にも開化紙は使われているが、清朝後期から流通が減り、やがて姿を消した。2018年から国家図書館と復旦大学中華古籍保護研究所が主導し、職人の手で再現。「セミの羽ほどの薄さ」という開化紙がよみがえった。職人の黄宏健(Huang Hongjian)さんは「開化紙の制作工程は複雑で、72もの繊細な工程がある。作業をすればするほど、奥の深さを感じます」と話す。

 北京でペーパーアートの展示、販売を手がける蔣禎雄(Jiang Zhenxiong)さんは、日本でも知られるグラフィックデザイナーと呂敬人(Lv Jingren)さんと共同でアートショップ「敬人紙語」を設立。手すき紙の特徴と魅力を生かした文房具、家具、おもちゃ、ブックカバーなどが並び、古紙作りを体験するワークショップも行っている。昨年末には北京で新たに制定された「文化観光体験基地」の1つに選ばれた。

 蔣禎雄さんは「私が特殊紙の仕事を始めた25年前は紙質も高くなく市場でも人気がなかったが、最近は関心の高まりを肌で感じます」と話す。中国経済が急成長し消費者の生活が向上する中、伝統文化への注目度が増している。(c)東方新報/AFPBB News