【9月26日 東方新報】半導体不足などの影響で中国の新車販売が伸び悩んでいる中、電気自動車(EV)だけは急激な勢いで販売台数が増えている。中国政府はEVの普及を後押ししているが、走行距離や充電、バッテリーの安全性といった課題の克服が求められている。

 中国自動車工業協会(CAAM)によると、8月の国内新車販売台数は前年同月比17.8%減の180万台で、4か月連続でマイナスを記録した。その中で、EVやプラグインハイブリッド(PHV)車などの新エネルギー車は2.8倍の32万台と、初めて月間30万台を突破した。

 中国メーカーのEVの走行距離は約60万元(約1015万円)の小型車で120キロ、200万元(約3383万円)以上の高級車は500キロなどと幅広いが、ガソリン車と比べればまだまだ短い。EVに使うリチウムイオン電池はこの10年間でリン酸鉄リチウムから三元系リチウムに切り替わり、エネルギー密度が大幅に向上したが、技術的に頭打ちとも言われる。そんな中、世界最大の電池メーカーの寧徳時代新能源科技(CATL)は7月に「ナトリウムイオン電池の商用化を始める」と発表。実現すれば、三元系リチウムよりエネルギー密度が高く、低温耐性や急速充電性能に優れた電池になるという。

 新興EVメーカーの上海蔚来汽車(NIO)は「バッテリー交換スタンド」の普及に力を入れている。通常の充電スタンドなら充電に1時間かかるが、NIOの交換スタンドは、ピットに車両が入ると自動で車両底部のバッテリーを交換。作業は5分で終わる。バッテリーは定額制で何度も交換できる。同社の創業者兼CEOの李斌(Li Bin)氏は「今年に入って交換スタンドの設置を加速させ、すでに445か所で稼働している」と話す。また、自動車大手の長城汽車(Great Wall Motor)は6月にバッテリーの安全性を重視した新技術の「大禹電池」を発表し、広州汽車集団(Guangzhou Automobile Group)傘下の会社は8月に自社開発の「超倍速電池」と急速充電スタンドを発表した。

 2060年までに脱炭素社会を目指す中国政府は、新車販売に占める新エネ車の割合を2025年までに20%前後に引き上げ、2035年には新車販売の主流にすると表明。さまざまな補助金を出している。

 ただ、急激な成長はひずみも生んでいる。各地にEV充電スタンドが設置される中、しばらくすると設備が劣化して使用できなくなる「僵尸(ゾンビ)スタンド」が社会問題となっている。過当競争で採算が合わなくなった設置業者が夜逃げしたり、最初から政府の補助金が目当ての業者が劣悪な施設を造ったりしているという。中国メディアの取材によると、上海市内にある充電スタンドの2割以上が「ゾンビ化」している疑いがある。

 また、近年は耐用年数が過ぎたEVの使用済みバッテリーが大量に生み出されているが、その多くは正規ルート以外の業者が安価に受け入れて処理している。業界関係者によると、80%近くが不適格な零細工場で処理され、環境問題も発生している。環境問題の解消のためEVが急激に広がることで、ゾンビスタンドが現れたりバッテリーの不適切処理が行われたりすれば本末転倒の話だ。EVの普及と並行した対策が急務となっている。(c)東方新報/AFPBB News