【9月18日 AFP】日が沈んだブッシュ一帯に、バファローの子どもの苦しげなうめき声が響き渡る。しかし、これは仕掛けだ。

 ここは南アフリカの野生動物保護区。バファローの声を拡声器で流し、ライオンたちを1本の木に引き寄せる。最強の捕食動物の個体数調査が目的だ。

 さらに誘いをかけるため、木にはインパラ2頭の死骸がつるしてある。においが餌のありかを教える。

 銃を携え、夜間双眼鏡と懐中電灯を頼りにこの光景を見守るレンジャーが、四輪駆動車のヘッドライトに照らされている。

「ここのライオンのことはよく分かっていますが、この作業を通じて確認するのです」と語るイアン・ノバク(Ian Nowak)さん。バルーレ自然保護区(Balule Nature Reserve)の主任監視員だ。

 隣にいた野生動物研究者は、闇から聞こえる音に耳を澄ましていた。彼女はゾウが草を食べる際に発する低いうなりも聞き分けられるし、カメラを構えてライオンを撮るタイミングも判断できる。

 ライオンを数えるための個体の識別には、傷や耳の形といった決め手となる特徴を探す。忍耐のいる作業だ。

 レンジャーチームは、23頭のライオンが獲物をむさぼる様子を目の当たりにしたことがある。「うなり声を上げて、けんか。それから地面に這(は)いつくばって食らいつきました」とノバクさんは、ささやき声で語った。「餌をめぐる狂乱でした」

■囲い込んではいけない

 バルーレ(Balule)は、モザンビーク国境まで広がるより大きな生態系につながっている。

 狩猟区だったバルーレや周辺地区は自然保護区となり、クルーガー国立公園(Kruger National Park)と合体した。その結果、内部に境界フェンスがない総面積250万ヘクタールの広大な領域が生まれた。

 野生動物のためにこれだけ広いスペースをつくり出したことは、近年ではまれなサクセスストーリーだ。

 ライオンの数を徹底的に把握するため、個体数調査員は広大なバルーレ一帯を動き回る必要がある。

 20年前、バルーレはほとんどが農地で、ライオンはほとんどいなかった。だが昨年の調査で、156頭の百獣の王が確認された。

「ライオンは驚くほどうまくやっている。十分な活動スペースがあることが大きい」とノバクさんは言う。

 南アフリカ政府による保護の取り組みが功を奏した上、ライオンを有料でも見たいという観光客の誘致も追い風となっている。民間の投資も流れ込んでいる。

 1年にわたる干ばつもプラスに働いた。餌不足で弱ったアンテロープやバファローが、大型肉食動物の格好の餌食になったのだ。