【9月19日 AFP】オランダ・ロッテルダム(Rotterdam)の港には、クレーンやコンテナの他、一つ見慣れないものがある──世界初とされる水上の酪農場だ。

 ガラスと鉄の3階建ての酪農場は、国土の多くが低地で、土地資源に乏しく、気候変動が直接的な脅威となるオランダにおいて「畜産の未来」を示すことを目指す。

 牛たちは最上階で飼育され、2階では牛乳からチーズ、ヨーグルト、バターが作られ、1階でチーズが熟成される。

 この酪農場は、ミンケ・ファンウィンガーデン(Minke van Wingerden)さん(60)と夫のペーターさんが2019年に始めた。2人は「街の中に田舎を持ち込み」、消費者の意識を高め、農業が存在できる場所をつくりたかったと話す。

 オランダは1人当たりの温室効果ガス排出量が欧州で最も多い国の一つ。農業による排出量、特に酪農では牛が大量のメタンガスを発生させるため、大きな問題となっている。

 そしてこのガスが、オランダを水没の危機にさらす海面の上昇を促進させる。

 水上の酪農場は、長期的にも短期的にもメリットがある。長期的には持続可能であることによって、そして短期的には…浮くことによってだ。潮位の変化に伴って動くため、農地冠水の心配がない。

 持続可能性は、フードバンクから調達するブドウ、地元の醸造所から出る穀類、地元のゴルフ場や地元の有名サッカークラブ「フェイエノールト(Feyenoord)」のスタジアムから出る草をまぜて牛の飼料にすることによって確保している。廃棄物を減らすとともに、市販の家畜用飼料製造時に発生する温室効果ガスの排出量削減にも貢献できる。

 また、牛のふんを肥料ペレットにすることによって、排出されるメタンガスの量を抑えることもできる。水面の牛舎には数十枚の太陽光パネルが並び、酪農場で必要な電力は十分にまかなえる。

 ファンウィンガーデンさんは、この酪農のアイデアは、環境に優しいだけではなく、農業を「もっと心地よく、面白く、セクシーに」することでもあると語り、夫と共に初めて港湾当局に水上に酪農場をつくるアイデアを伝えた際に「正気ですか?」と言われたことを振り返った。

 酪農場は2021年末に初めて黒字となる見通し。スーパーマーケットで売られている1リットル約1ユーロ(約130円)の牛乳ではなく、ここで生産される同1.8ユーロ(約230円)の牛乳を選択する消費者が増えているという。(c)AFP/Charlotte VAN OUWERKERK