■コロナ禍とつながった希望

 宮崎氏のチームは、AIMの安定した生産体制に向けて、数年間にわたり足場を固めていたが、研究は2020年に暗礁に乗り上げた。新型コロナウイルスの流行で打撃を受けた企業からの支援が引き揚げられたからだ。

 しかし、窮状についての記事が先月配信されると、一般の支援の輪が会員制交流サイト(SNS)で一気に広がった。

 宮崎氏自身は寄付を募集していなかったにもかかわらず、一夜にして3000件の寄付の申し出があり、数日で1万件に達した。東京大学全体への寄付の申し出の1年分の数だ。東大基金によると、8月中旬で寄付総額は1億6000万円を突破した。

 研究者は、自分の研究に対する一般の人からの評価にじかに触れる機会はほとんどないと宮崎氏は言う。「自分の研究がこんなに期待されて、待ち望まれているのかというのを初めて肌で感じた」と語る。感謝とともに「かなりの責任」も感じている。

 ネコ科の動物のAIMは機能していないが、血中には高濃度で存在する。腎臓病の予防には、AIMの直接投与の他に、活性化しにくいネコ科の動物に特有なAIMを、サプリなどで少しでも活性化させ機能させるというアプローチもあり、そうした成分が入ったペットフードの開発も進んでいる。

 トイレの水を定期的に流せば、きれいに保てるのと同じ原理だと、宮崎氏は言う。

 ライオン、トラ、ヒョウ、チーターなどのほとんどの大型のネコ科の動物でも、腎臓の問題は共通だ。

 進化の過程で、AIMが機能しないことが何かの役にたっていたのかは不明だ。ただ、大型肉食動物が30年も生きるようになると、生態系が狂うということは考えられる、と宮崎氏は指摘する。

「本来進化というのは、個のベネフィットのために起こるはずのことで、全体の生態系のバランスを考えて個の進化を抑えるというのは、もしあったとしたらすごいことです」

 そんなことはあるはずがないと生物学者として考える一方で、「神の手としか言いようがない」とも感じる。

 野生の肉食獣にAIMを使う場合は、種の保存のためなど、限定した使い方がよいと考えている。(c)AFPBB News/Miwa SUZUKI