【8月6日 AFP】千葉県在住の稲田弘(Hiromu Inada)さんは、来年開催予定のアイアンマン世界選手権(IRONMAN World Championship)への出場を目指し、トレーニングの参考にしようと東京五輪で競う選手らの映像を欠かさず見ている。稲田さんは来年90歳だ。

「自分と比べて『これはいいフォームだな、これはいいな』って。(中略)いろんな勉強になる。それをまた練習のときにやるんですよ。それでうまくいくことが多い。それがうれしいねえ」とAFPに語った。

 11月に89歳になる稲田さんは、アイアンマン世界選手権を完走した世界最高齢の選手としてギネス世界記録(Guinness World Records)に認定されている。アイアンマンレースとは、水泳3.86キロ、自転車180.25キロ、そしてマラソン42.2キロの3種目を連続で行う耐久競技だ。

 年代別カテゴリーでこれまでに3回優勝している稲田さんの競技への思いは強く、録画した五輪出場選手らの映像を見て姿勢や脚の出し方などの分析までしている。

 新型コロナウイルスの流行を受けて、東京五輪のほとんどの競技が無観客で行われている。7月23日の開幕前に行われた世論調査では、五輪「反対」が「賛成」を上回っていた。

 稲田さんも開幕前は、開催を疑問に思うこともあった。「でも、現にやっているのを見ると涙が出ます。うれしくて。やってもらってよかった」

■「生きている証し」 

 今でこそスポーツに没頭する稲田さんだが、トライアスロンに出会ったのは病気の奥さんを看病するために60歳で仕事を辞めて、水泳を始めてからだった。看病のために家に閉じこもっていることが多く、体を動かすことが必要と感じたのだという。

 初めて地元のトライアスロン大会に参加した時、稲田さんは70歳になっていた。通常のトライアスロンの4倍もの距離があるアイアンマンレースへの挑戦は70代半ばを過ぎてからだ。

 稲田さんは、コーチの指導を受けながら数年にわたりトレーニングを続けた。そして2012年、ハワイで開催されたアイアンマン世界選手権の年代別カテゴリーで初めて優勝を果たした。記録は15時間38分25秒だった。

 その後、2016年と2018年の大会でも完走を果たした。85歳と328日での完走は、世界最高齢の記録となった。だが、稲田さんの挑戦は終わっていない。来年の世界大会に向け朝6時からトレーニングの日々だ。

 稲田さんは、「みんなに言って笑われるんだけど、今が僕の青春(中略)生きている喜びみたいな感じだね」と話す。「このトライアスロンというのが自分の生きている証しというか、生きがい」 (c)AFP/Natsuko FUKUE