【8月7日 AFP】東京五輪の陸上で銀メダルを獲得したナミビアのクリスティン・ムボーマ(Christine Mboma)はまだ18歳。スプリンターとして輝かしい未来が待ち受けているはずだが、競技を続けられるかどうかという大きな問題がある。

 3日、女子200メートル決勝で並み居る世界のスターを抑え21秒81で2位に入った。20歳以下の新世界記録だ。同じく18歳のチームメート、ベアトリス・マシリンギ(Beatrice Masilingi)は6位に終わったが、初の大舞台で200メートルの決勝に進出し注目を浴びた。

 しかし同決勝での二人の存在が、陸上競技をめぐる議論を再燃させた。体内の男性ホルモン・テストステロン(testosterone)値が生まれつき高い女子選手に関する複雑なルールが争点だ。

 ムボーマもマシリンギも、生まれながらにしてテストステロン値が高い「体の性のさまざまな発達状態(性分化疾患、DSD)」という遺伝的変異がある。インターセックスとも呼ばれるアスリートだ。

 ワールドアスレティックス(World Athletics、世界陸連)は、二人のような珍しい生理機能が陸上競技の400メートルから1マイル(約1600メートル)までの女子の競走で不公平な優位性を与えるとしている。

 この問題のため、女子800メートルで五輪2連覇していた南アフリカのキャスター・セメンヤ(Caster Semenya)も東京五輪出場を逃した。セメンヤもDSDアスリートに分類されている。

 世界陸連は2018年、DSDの女子選手について、体内のテストステロン値を抑える薬を摂取しない限り400メートルから1マイルまでの種目には出場できないとする新規定を定めていた。

 だが、セメンヤは薬の摂取を拒否し、法的手段で規定の無効を訴えているが成功していない。

 ムボーマとマシリンギは今シーズンの初めは400メートルに狙いを定めていた。特にムボーマは、6月にポーランドで行われた大会で今季の最高タイム48秒54を出すなど、二人は東京五輪の同種目でメダル候補となっていた。

 ところがその後、二人がDSDであることが判明。東京での400メートル出場の資格を失い、200メートルに切り替えた。

「400メートルにも出たい」とムボーマは今週初め、200メートル予選を通過した後に語った。「とても変。本当に理解できない。私としては、今、この意味が分からない。今後、これが変わることを望んでいる」

 DSDアスリートのマーガレット・ワンブイ(Margaret Wambui、ケニア)は、2016年リオデジャネイロ五輪で800メートルの銅メダルを獲得している。彼女の提案する解決策は、世界陸連がDSD女性に特化した競技カテゴリーを導入することだ。

 ワンブイは英BBCに「高テストステロンのアスリートのための第3のカテゴリーが導入されれば素晴らしい」と語った。「人が才能を発揮することを阻むのは間違いだ」

 シェリー・アン・フレイザー・プライス(Shelly-Ann Fraser-Pryce、ジャマイカ)は、東京五輪の200メートルでメダルを逃したが、ナミビアの2選手については明言を避けた。

「彼女らが走るのを許されれば、それについて自分ができることは何もない」と語った。「走ることを許されたら許されたということ。それについては何も考えなかった。私は、競走するために並んだだけ」

 一方で、世界陸連にはDSDの選手が自由に参加できない種目に200メートルも加えるべきだという厳しい意見もある。

 AFPが世界陸連にコメントを求めたところ、公式サイトに掲載されたDSDに分類されたアスリートに関するドキュメントを見るよう促された。

 同文書によれば、世界陸連は科学的な裏付けがあれば、制限種目のリストを拡張もしくは縮小することをいとわないという。(c)AFP/Rob Woollard