■「相当なタイム差」

 平たいランニングシューズやスパイクに使われるテクノロジーは、陸上競技を統括するワールドアスレティックス(World Athletics)によって認可されている。ただ認可の範囲は靴底のフォーム素材の厚さなどに限られており、メッツラー氏は、スーパーシューズのデザインが「ランナーの走りをより効率化することが証明された。これは大きな変化です。特に800メートルから1万メートルで明らかだ」と話している。

「5000メートルで5秒から15秒伸びると話したアスリートもいる。これは、相当なタイム差になる」

 エチオピアのレテセンベト・ギデイ(Letesenbet Gidey)は先月、スーパーシューズを履いて自身が持つ女子1万メートルの世界記録を1分以上縮め、29分1秒03を記録した。ウガンダのジョシュア・チェプテゲイ(Joshua Cheptegei)も昨年、同シューズで男子5000メートルの世界記録12分35秒36を樹立した。

 バーンズ氏は「中長距離レースでの速いパフォーマンスは、ファンや中継アナウンサー、メディアによって絶賛されていますが、その方法にはいまだに大げさになる傾向がある」とし、「つまり、陸上競技界がまだ何が良くて、何が偉大かという基準を完全に再設定していないからだ。これにはもうしばらくの時間と試合が必要になる」と語った。

「来年末までには、ずいぶん近づくでしょう。2年後には、新しい時代で本当に優れたパフォーマンスとは何かをつかんでいる」

 メッツラー氏は「ランニング種目ではすでに後戻りはできない。私たちは、新しいシューズが人間のパフォーマンスを向上させている状況の中にいる」とし、「それは、おおむね良いことだ」と続けた。男子5000メートルで13分を切る時代となり、デビッド・ムーアクロフト(David Moorcroft、英国)やサイド・アウィータ(Said Aouita、モロッコ)が席巻した数十年前とは違うと話す。

 それでもバーンズ氏は、東京五輪で世界記録は「おそらく」生まれないと感じており、「スパイクやシューズは現在のところ、圧倒的に長距離で効果が出ている。選手権では、長距離が戦術的な展開になるので、記録は生まれにくい」と話している。

 バーフット氏も同じ見解を示し、「五輪で重要なのは、勝つか負けるか。世界記録は、最適条件下で行われる1日だけの大会でより出やすい」と述べた。

 それでも、3人の専門家は、トップアスリートたちが新型コロナウイルスの世界的大流行の中でも調子を落としていないことで意見が一致した。多くの選手が、いつも以上の休息とトレーニングの時間を得たという。

 バーフット氏は「アスリートは健康で、準備が整い、気合も入り、おまけにスーパーシューズを履いている」と語った。(c)AFP/Luke PHILLIPS