【7月27日 東方新報】米国の電気自動車(EV)大手、テスラ(Tesla)が中国で販売しているスポーツタイプ多目的車(SUV)「モデルY」の標準レンジ仕様が、人気を集めている。テスラはつい最近まで中国で逆風に見舞われていたが、従来車両より大幅に値下げした「価格破壊」で存在感を取り戻している。

 7月8日に販売を開始したモデルYの標準レンジ仕様の販売価格は、補助金適用後で27万6000元(約470万円)。ロングレンジ仕様のモデルYの34万7900元(約593万円)と比べ、7万1900元(約123万円)も値下げした。標準レンジの航続距離はロングレンジの594キロと比べて59キロ減の525キロ、最高時速は8キロ減の217キロ、停止状態から時速100キロまでの加速に要する時間は0.6秒増の5.6秒。いずれもロングレンジより劣るが、日常生活で運転する際には大差はない。これで120万円以上も安いので、消費者が飛び付いている。北京市中心部の店舗では、テスラ担当者が「今すぐ注文いただければ、早くて10月中にお届けします」と説明。納車まで3か月以上かかる人気ぶりだ。

 テスラの上海工場は、中国政府が外資企業の単独出資を初めて認めた自動車工場だ。中国が市場を開放しているとアピールする象徴となり、テスラは米国より中国での販売台数が上回るようになった。

 だが今年に入ると、潮目が変わった。国家市場監督管理総局は2月、テスラに対し車両の異常な加速や電池の発火の問題が報告されているとして対策を指示。4月に開かれた上海国際自動車ショーでは、衝突事故を起こしたというテスラ車の女性オーナーが「ブレーキに問題があった」としてテスラの展示車の屋根に乗って抗議。動画が拡散し、テスラのイメージが悪化した。6月下旬には、自動運転システムに不具合があるとして2019年以降に中国で販売した28万6000台をリコールすると届け出た。同期間の販売台数の9割超に相当する。

 こうした流れを受け、海外メディアからは今月初めまで「中国政府とテスラの蜜月に変化」「中国の国産企業がEV市場のシェア拡大か」という論調の報道が相次いだ。しかし、低コストのリン酸鉄リチウムバッテリー(LFP)を採用し、「価格破壊」を実現した標準モデル仕様の登場で、情勢を大きく転換した。

 ただ、気持ちが穏やかでないのが、つい最近モデルYのロングレンジ仕様を購入した消費者だ。「ほとんど性能が変わらないのに7万元以上も違うなんて」「テスラのディーラーから『今すぐ買わないと納車が遅くなる』と言われて買ったのに」「契約してまだ車も来ていない。今からでも標準レンジ仕様に取り換えてほしい」。中国メディアの取材やインターネットの書き込みでは、こうした不満やぼやきが多く見られる。

 最近の中国では「割韭菜(ニラを刈る)」という言葉がある。もともとは株式用語で、未熟な個人投資家が投資に失敗しても次から次へと新たな投資家が現れる状況を「刈っても刈っても生えてくるニラ」に例えたもの。「ユーザーはいくらでもいるから、市場や企業は個々人の損失など気にしない」という意味で、複数の中国メディアが「ロングレンジ仕様のオーナーはテスラに『ニラ刈り』された」と皮肉っぽく伝えている。(c)東方新報/AFPBB News