【7月20日 東方新報】中国でパンダが絶滅危惧種から危急種に「格下げ」されたことで、市民の間で「これはハッピーなグレードダウンだ」「保護活動まで格下げしないで」と話題になっている。しかし専門家は「パンダの生育環境が厳しい状況は変わっていない。むしろ一部は深刻化している」と指摘している。

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 中国生態環境部自然生態保護局の崔書紅(Cui Shuhong)局長は7月7日の会見で「長年の環境保護政策により野生生物の生息環境は改善されている。チベットカモシカやアムールトラ、アジアゾウ、トキなどの数が明らかに増加している」と説明し、パンダについても「野生パンダの数は1800頭以上に達し、絶滅危惧種から危急種に等級が下がった」と明らかにした。

 野生のパンダの個体数は1980年代の調査の1114頭から2015年の調査では1864頭に増加。さらに人間が管理・飼育しているパンダは2020年末に633頭に達している。国際自然保護連合(IUCN)は2016年にパンダを絶滅危惧種から危急種に等級を下げており、中国も5年を経て追随した形だ。中国メディアは「格下げされても、私を愛してくれますか?」という見出しをつけてこのニュースを報じた。

 野生パンダを増やす「森への放流」計画を進める中国ジャイアントパンダ保護研究センターの張和民(Zhang Hemin)常務副主任は「パンダは野生動物保護の象徴であり、等級引き下げによって保護活動に影響が出ることはない。パンダは今でも国宝であり、絶滅危惧種と同じ扱いで保護を続ける」と強調する。

 実際、パンダの生息環境は安定しているとは言い切れない。生息地域は中国西部の四川省(Sichuan)、陝西省(Shaanxi)、甘粛省(Gansu)の狭い地域に限られている。地球温暖化が進めば、パンダのえさとなる竹林が今後80年間で3分の1も消失するという予測もある。

「重要なのは個体数でなく生息地の保護だ。パンダの生息地は細分化・分断化されている」。そう訴えるのは、元国家林業局ジャイアントパンダ保護管理弁公室主任で、元世界自然保護基金首席科学者の範志勇(Fan Zhiyong)氏だ。パンダの個体群は約20年前の調査では18か所に分かれていたが、2016年の調査では33か所に細分化されている。30頭以下の個体群が22か所あり、このうち10頭以下の個体群が18か所もある。パンダの保護エリアは広がっているが、高速道路や貯水池の建設など各地の開発が進み、パンダの生息域の分断化が進んでいる。すべてのパンダ生息地を訪れている張氏は「各地の生息地を結び付ける努力を人間がして遺伝的多様性を確保しなければ、個体群が次々と滅ぶ恐れがある」と指摘する。

 張氏は「中国の野生動物保護法は種の保存に力を入れており、生息地の保護に焦点を当てていない」として、「パンダ保護法」の制定も提唱している。「パンダを『飾り物』程度に考えずに本当に守りたいのなら、人間が代償を払わなければならない。生物多様性を軽視すれば、結局は人間が生きていく余地がなくなるのだから」と警鐘を鳴らしている。(c)東方新報/AFPBB News