【7月17日 AFP】パレスチナ人アーティストのタキ・スパテーン(Taqi Spateen)氏にとって、ベツレヘム(Bethlehem)にイスラエルが設置した分離壁に沿って歩くのは、野外で行われている自身の壁画展を訪れるようなものだ。スパテーン氏は、イスラエルの占領を糾弾するグラフィティを壁に描いている。

 スパテーン氏の作品でほぼ埋め尽くされているコンクリートの壁の目の前には、英国の覆面アーティスト、バンクシー(Banksy)がベツレヘムで手掛けた「ウォールド・オフ・ホテル(The Walled Off Hotel)」がある。この一画は、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸(West Bank)に建設された分離壁の中でも今や名所となっている。

 スパテーン氏の作品には、米国で警官に殺害された黒人男性ジョージ・フロイド(George Floyd)さんの巨大な肖像画もある。

「フロイドさんもパレスチナ人のようだ。私たちと同じ問題を抱えている」とスパテーン氏はAFPに語った。取材を受けながら完成させた壁画は、東エルサレム(East Jerusalem)の「岩のドーム(Dome of the Rock)」の下に狙撃銃を描いたものだ。

 スパテーン氏は、イスラエル占領下のパレスチナの暮らしを視覚的に表現することが、何十年にも及ぶこの紛争に世界の関心をつなぎ留める助けになると説明する。

 分離壁について、イスラエルは自国への攻撃を防ぐために必要だとしている。壁の大半はヨルダン川西岸地区の内側に建てられている。一方のパレスチナ側は、エルサレムから自分たちを隔離する差別的な壁だと主張している。

 スパテーン氏は今、フランスでプロジェクトを行う計画を進めている。プロジェクトのテーマは、「もやがかかったように先が見えない」パレスチナ社会だ。着想は、イスラエル軍がパレスチナ人の抗議運動や騒乱を鎮圧するために使用した催涙ガスの映像や、イスラエル軍の空爆を受けたガザ(Gaza)地区に大量の粉じんが舞う画像から得た。

 スパテーン氏は、コンクリートの分離壁は「醜い」が、ここに絵を描き続けることが重要なのだと強調した。

「グラフィティは、パレスチナでは抵抗の手段なんです」 (c)AFP