【7月1日 AFP】中国で「最も裕福な村」と呼ばれた東部・江蘇(Jiangsu)省の華西(Huaxi)村。先見の明を持つ一人の共産党員の指導の下、農業を営んでいた村民たちは中国の集産主義の理想に沿いながら大金持ちになり、村は、一党支配を続ける党のプロパガンダ(政治宣伝)にとって格好のモデルとなった。

 しかし、華西の成功神話には陰りが見えている。村を衰退させた縁故主義は、「中国の特色のある資本主義」の落とし穴として大きな教訓になると専門家らはみている。

 上海から約2時間。田舎の農村だった華西を、村の指導者の呉仁宝(Wu Renbao)氏は、40年以上にわたる経済改革の波に乗って豊かな共同体へと変化させた。この間に中国は、貧困国から大国へと生まれ変わった。

 呉氏は、織物から鉄鋼、不動産まで幅広く手掛ける村の複合企業体「華西集団(Huaxi Group)」を立ち上げ、100社以上の企業を束ねた。グループ企業は巨額の富を築き、村の上層部は、高い配当金で住民に利益を還元するという新しい手法を取り入れ、称賛を浴びた。

 報道によると、2004年までに村民の平均年収は12万2000元(約210万円)を超えた。国内の大半の農業従事者の40倍だ。華西は、共産党が指導する貧困からの脱却運動の勝ち組となり、邸宅や豪華ホテルが建ち、他国の大学で学位を取得する村民も生まれ、手厚い福祉政策でも他の自治体を抜きんでていた。

「共産主義者であれば、大多数の人民の幸福を追求するのは当然だ」という呉氏の発言を国営新華社(Xinhua)通信は報じている。

 2013年に同氏が84歳で亡くなった時は、葬列に20台の車が連なり、巨大な遺影は中国の指導層から贈られた造花の花輪で飾られた。

 それから8年を経た今、華西の経済的な離陸は失敗したように見える。

 2月に拡散された動画には、村民たちがATM(現金自動預払機)の前に並び、必死に貯金を下ろそうとしている姿が捉えられていた。

 国内メディアによると、取り付け騒ぎの発端は、複合企業体の利益配当が30%からわずか0.5%まで下がったことだった。一方、村の負債は389億元(約6700億円)まで膨れ上がっている。

 当局者は、ATM騒動の映像を本物であると認めたが、華西の財政が破綻したとのうわさは否定した。