【6月2日 AFP】女子テニスの大坂なおみ(Naomi Osaka、23)がうつ病を公表し、全仏オープンテニス(French Open 2021)棄権を決めたことで、一流スポーツ選手のメンタルヘルス問題が注目されている。ある専門家は、選手の苦悩に対するメディアの「のぞき見趣味」を批判した。

 現在世界ランキング2位で、グランドスラム(四大大会)4勝を挙げている大坂は、コートからしばらくの間離れると宣言。開幕間近のウィンブルドン選手権(The Championships Wimbledon 2021)と東京五輪への参加に暗雲が垂れ込めている。

 大坂は現在開催中の全仏オープンで、義務付けられているメディア対応を拒否し、1万5000ドル(約160万円)の罰金を科されたほか、失格の可能性もあると通告された。大坂は拒否の理由として、試合後の定例記者会見は「落ち込んでいる人間を踏みにじる」もので、自身の精神衛生を損なうと主張した。

 オーストラリア・南クイーンズランド大学(University of Southern Queensland)のピーター・テリー(Peter Terry)教授(心理学)は1日、豪サイト「theconversation.com」への寄稿で、試合後に行われている記者会見には「のぞき見趣味の感覚」があると指摘。「一部の人はおそらく、自分が崇拝していたアスリートが泣き崩れるのを見たいのだろう」とした。

「大坂は若く、内向的で、不安を抱えている人物だ。スポーツのスター選手は超人ではなく、他の皆と同じように疑念やメンタルヘルスの問題を抱えていることを、私たちは理解するべきだ」(テリー氏)

 テリー氏は女子テニス協会(WTA)と10年以上にわたり協力し、10代半ばの選手の燃え尽き防止とプレッシャーへの対処のガイドラインを作成する委員会に参加した。

 同氏は、うつ状態にあるときに注目を浴びる場を避けた大坂の選択は正しいと指摘する。重要となるのは親しい人からのサポートであり、時には専門家の支援も必要だ。

「メディアはこれらの基準を満たしていない。このため、世間の注目を浴びながら深刻なメンタルヘルスの問題に対処しようとするのは、ほぼ不可能だ」とテリー氏は指摘。「彼女をさらなる不安に駆り立てる大きな力がある。東京五輪での彼女にどれだけの期待がかかっているか、想像してみてほしい」とつづった。

 ベルギーのルーバン・カトリック大学(UCLouvain)のフィリップ・ゴダン(Philippe Godin)教授(スポーツ心理学)は「うつ病という言葉には軽蔑的な意味合いがあり、世間一般からはあまり理解されていない」と話す。「スポーツでは、自分は強い人間で、ほぼ無敵であることを示さなければならない。弱さとは両立しない」 (c)AFP