【5月24日 東方新報】北京市の幹部が食事配送サービスの配達員を体験したテレビ番組が中国で話題を呼んでいる。過酷な労働ぶりがあらためて浮かび上がり、デリバリー企業は釈明に追われている。

 北京電視台(BTV)のドキュメンタリー「大衆のために働く」シリーズ第1弾として、北京市人力資源社会保障局労務部の王林(Wang Lin)副部長が電動自転車に乗って弁当の配達を体験した。1日で12時間働いたが、うまく注文が取れず、配達にも時間がかかり、配達は5件にとどまり収入はわずか41元(約693円)だった。「これほど大変とは。こんなに走ったのに目標の100元(約1690円)の半分も稼げなかった」。路上に座り込んで、ため息をつく王氏。ある注文では配達に1時間以上かかり、「手取りを60%削られた」と打ち明けた。客の注文を受けたデリバリー企業が配達員に指示しているが、配達に時間がかかったり顧客からクレームを受けたりすると、デリバリー企業が報酬から罰金を差し引くためだ。

 放送直後の4月29日、フードデリバリーの2大大手、騰訊(テンセント、Tencent)系列の美団(Meituan)と阿里巴巴集団(アリババグループ、Alibaba Group)傘下の餓了麼(Ele.me)は「配達員への罰金制度は徐々に減らしている。今後も配達員の対偶改善に努めていく」と声明を出した。

 中国では新型コロナウイルス感染症の拡大以前から食事の配送サービスが広まっており、コロナ禍でさらに急増。食事以外の生活用品も配達している。美団の配達員は470万人、餓了麼も300万人以上に上る。中国では「デリバリードライバーは好きな時間に働き、月に1万元(約16万9098円)稼げる」とも言われるが、実際はそう甘くない。

 実際に月1万元を稼いでいる北京市朝陽区(Chaoyang)の高さんは「1日12時間以上で約50件配達し、時には15時間も働いています。稼ぐコツは、注文の多いエリアを把握し、弁当を作った飲食店にすぐ駆けつけられる場所にいること。一度に数件の弁当を運ぶルートを考えておくこと。エレベーターが使える建物か、ビルや団地ごとに知っておくこと。敷地内に入れないオフィスビルの場合、早めに客に電話して入り口で待ってもらうこと。こうしたノウハウを身に付けてやっと1万元が稼げる」と話す。そして「最も大事なことは、犬のように疲れている時に客に怒鳴られても、笑顔を失わないことです。注文客がスマホアプリで私をマイナス採点すると、罰金を取られ、注文も回ってこなくなる」と付け加える。

 マーケティングリサーチ企業大手の艾瑞諮詢(iResearch)によると、中国のデリバリー市場は2019年に6500億元(約10兆9914億円)を超え、約5億人の消費者が利用している。ただ、需要の増加とともに、配達員の交通事故が各地で発生。デリバリー企業は衛星利用測位システム(GPS)や人工知能(AI)を利用して配送先までの最短ルートと到着マ時間を配達員に指示しているが、「実際に時間を厳守するには信号無視や逆走などの危険な運転をするしかない」という訴えが相次ぎ、美団と餓了麼は昨年9月、注文客のスマホアプリに「5~10分遅れてもいい」というボタンを設けるなどの対策を発表した。

 昨年12月には餓了麼の業務を請け負った43歳の配達員が突然死した。餓了麼は当初、「死亡した配達員とわが社の間には雇用関係は存在しない」と説明したが、インターネットで批判が高まると急きょ遺族に60万元(約1015万円)を補償すると表明した。

 美団の業績報告によると、同社の昨年の営業収入は過去最高の1148億元(約1兆9412億円)、純利益は倍増の47億700万元(約806億5974万円)となった。配達員の「血と汗と涙」で積み上げた収益に対し、今後も市民から厳しい目が注がれそうだ。(c)東方新報/AFPBB News