【6月3日 AFP】台湾の水産業は大きな利益を上げているが、外国人の出稼ぎ漁船員への強制労働や暴力をめぐり、非難の目を向けられている。台湾政府は民主的な体制をアピールしているが、船上の実態はそうしたものとは懸け離れている。

 台湾のはえ縄漁船団の総数は世界第2位を誇り、何か月、時には何年にもわたって遠洋で漁を続け、スーパーマーケットに海産物を供給している。

 しかし、船内で働くほとんどは、フィリピンやインドネシア、ベトナムからの貧しい出稼ぎ労働者だ。彼らは、過酷な労働時間、減給、何か月にも及ぶ家族との連絡途絶、日常的な殴打、さらには洋上死など、悲惨な現状を訴えている。

 米国は昨年、台湾の遠洋船団が取った魚を「強制労働によって生産された品目リスト」に初めて加えた。独裁制を脱し、アジア有数の先進的な民主主義体制を標榜(ひょうぼう)する台湾にとっては、ばつの悪い措置だった。

 台湾は近年、アジアで初めて同性婚を合法化し、蔡英文(Tsai Ing-wen)総統が先住民族に歴史的な謝罪を行い、さらに、戒厳令施行下で横行した人権侵害の解明にも取り組んできた。しかし、30億ドル(約3300億円)規模の水産業で労働者が虐待されている問題に関しては、ほとんど進展が見られない。

 AFPがインタビューした出稼ぎ漁船員らは、1日最長21時間労働が常態化し、言葉や身体的な虐待を受け、外界との接触も遮断されていたと証言した。ようやく賃金を受け取っても、多くの場合、あっせん業者が約束した額より少なかった。

 インドネシア人のスプリ(Supri)さん(インドネシアでは珍しくない1語のみの名前)は、台湾漁船で船長に毛嫌いされ、何かにつけて叱責され、冷凍庫に閉じ込められたこともあれば、船長が命じた他の乗員から魚を殺すのに使用するスタンガンを体に当てられたこともあったと話す。「家に帰りたいとずっと考えていた」とスプリさん。「死にたくなかった。家族にまた会いたかった」