■「謙虚さ」のしるし

 戦乱で荒廃し、さらに経済危機、コロナ禍で困窮するシリアに、旋回舞踊は安らぎをもたらしてくれると言うムアイヤッドさんは、ダマスカスの人気マーケットで香水店を営んでいる。

「気がめいるといつも部屋にこもって、安らかな気分になるまで回り続けます」

 ダマスカスの自宅の中庭ではアナス君や親戚の若者が集まり、そろいの白い衣と上着、それに丈の高い帽子をまとって舞の練習をする。ムアイヤッドさんの兄、マフムードさん(34)の祈りの歌に合わせて一斉にくるくる回る。

「腕を上げることで、神にご慈悲を願い、天に祈りを送ることになります」と身ぶりを入れて説明するマフムードさん。「胸に手を置くのは、神の前で服従と謙虚さを示すためです」

■ラマダンの特別演技

 2011年にシリア内戦が勃発するまで、マフムードさんは欧州諸国や米国でも舞を披露していた。「シリア以外で過ごす時間の方が多かったです」。しかし紛争で移動を制限される中、一家の出番はレストランや結婚式など地元のイベントに限られている。

 ラマダン期間中の夜の仕事に、生計を立てる「最後の望み」を託しているとマフムードさんは明かしていた。

 神聖なラマダンの月は、スーフィーの踊り手たちにとって書き入れ時だ。日没で断食が終わると、カフェやレストランに集まってコーヒーをすすり、水たばこを吸う聴衆を前に演じる。ダマスカスの人気スポットはどこも、スーフィーの踊りが客を呼ぶ。

「私たちは人々と儀式を分かち合うラマダンの月を心待ちにしています」とマフムードさん。「旋回の踊りは時間と場所を選ばないものですが、ラマダンの間はいつにも増して崇高になります」 (c)AFP/Maher Al-Mounes