【5月1日 東方新報】中国・黒竜江省(Heilongjiang)密山市(Mishan)の農村で野生のアムールトラが村民に襲いかかる事件が発生した。トラは捕獲されたが、いずれまた自然に戻す方針という。

 トラは4月23日午前7時ごろ、ロシア国境に近い密山市臨湖村(Linhu)の農地に突然、姿を現した。農作業をしていた50歳の女性、李春祥(Li Chunxiang)さんの右肩など5か所にけがをさせ、走っていた車に猛スピードでぶつかって窓ガラスを粉々にするなど次々と住民を襲い、村は一時パニック状態に陥った。トラは麻酔銃を撃たれて23日夜にようやく捕獲されたが、李さんら2人がけがをし、筋肉を損傷した李さんは傷の縫合手術を受けた。トラは2~3歳のオスで、体重は225キロあった。

 アムールトラは主にロシア極東地域と中国東北部に生息し、国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種に指定している。中国はアムールトラの保護に力を入れ、黒竜江省と吉林省(Jilin)にまたがる山地に自然保護区域を設置。今回トラが現れたのは農村地帯だったが、周囲には起伏のある森林があり、かつてのアムールトラの生息地域だったという。

 捕獲されたトラは、黒竜江省牡丹江市(Mudanjiang)にあるアムールトラ人工飼育繁殖基地の横道河子ネコ科動物飼育繁殖センターに移送された。今後45日間、健康状態や感染症の有無を確認した上、問題がなければ自然に返すという。

 人間を襲った動物は通常なら殺処分されそうだが、国家林業草原管理局ネコ科研究センターの張明海(Zhang Minghai)所長は「このトラは年齢的に母親のもとを離れて自立したばかりと考えられる。捕食能力や危険を回避する能力がまだ乏しいため農村に入り込み、人間を襲ったのだろう」と分析。国家林業草原局アムールトラ・アムールヒョウ監視研究センターの馮立民(Feng Limin)副所長は「野生のアムールトラの個体数は500~600頭と非常に少ない。遺伝的多様性の観点からも、1頭でも野生の虎がいなくなることは大きな損失となる」と説明する。

 一連の保護対策によりアムールトラが増加傾向にあるのは喜ばしい傾向だが、それだけ人間と接触する可能性も高まる。昨年11月には、吉林省汪清県(Wangqing)の山道を車で走っていたドライバーが野生のアムールトラに遭遇する事例もあった。トラの保護対策と同時に人間との接触対策も必要となってきている。(c)東方新報/AFPBB News