【5月16日 AFP】中米メキシコ・ユカタン(Yucatan)半島の乾いたグラウンドに勢ぞろいした女性たちは、刺しゅう入りの伝統衣装にはだしといういで立ち。マヤ系先住民の彼女らはバットとソフトボールを手にし、男女差をめぐる固定観念と、この国のマッチョ文化に挑んでいる。

 ロッカールームも、端正な芝生もないホームグラウンドは、メキシコ南東部キンタナロー(Quintana Roo)州のマヤ系先住民の居住地、ホンゾノート(Hondzonot)村にある。チームは、名付けて「小悪魔(Diablillas)」だ。

 試合の観客は、ほとんどがビール片手の男たち。過酷な直射日光を避け、木陰の石の上に座っている。

 チームが最初にぶつかったのは、性差別の壁だった。「あの人たち、女性がプレーできるなんて思っていなかったんです。でも、男性と同じくらい、いや、それ以上にできることを見せてきました」とキャプテンのファビオラ・マイ(Fabiola May)さん(29)は誇らしげだ。「今では、夫たちもたくさん応援してくれます。私たちを批判する人もまだいるけれど、気にしていません」

 選手の多くは母であり、主婦だ。手工芸品を売って暮らしを立てている女性もいる。だが、新型コロナウイルスの感染拡大はメキシコにも大打撃を与え、他の商売と同じく、もうけは大きく減っている。

■「切っても切れない」民族衣装

 試合前、マイさんはマヤ語で最後の指示を選手らに与えた。

 その日の対戦チームは、隣接するユカタン州の村ピステ(Piste)から来た「ピステの戦士(Guerreras de Piste)」だ。やはりマヤ系の女性たちだが、ズボンにTシャツ、スニーカーという装いだ。

 対して、20人の「小悪魔」たちははだしでプレーすることを選んでいる。その方がずっと楽だし、身に着けた鮮やかなウィピル同様、このチームらしさが出ている。手縫いで刺しゅうを施したウィピルは、何世代も引き継がれてきた民族衣装だ。

「ウィピルをユニホームに決めたのは、私たちから切っても切れない、マヤ人であることの証しだから」と言うフアナ・アイ・アイ(Juana Ay Ay)さん(37)。スミレの刺しゅう入りのウィピルを着ている。

 数か月かけて出来上がる伝統衣装は、キンタナロー州の暑さを過ごしやすくしてくれる。

「小悪魔」軍はさらにイヤリングやメークをして、グラウンドに立つ。彼女たちにとって、すべての試合は祝祭なのだ。