【4月15日 AFP】ロシアの北極圏にある巨大な閉鎖工場をいてつく風が吹き抜ける。かつては光り輝いていた大型機械が今ではひっそりと静止し、空のタンクは雪で覆われている。

 資源の豊富なロシア北西部ムルマンスク(Murmansk)州に金属大手ノリリスク・ニッケル(Norilsk Nickel、ノルニッケル)が所有するこのニケリ(Nikel)冶金(やきん)工場は、操業開始から74年間で、非鉄金属であるニッケルを240万トン以上生産した。ニケリという町の名はそれにちなんでつけられたものだ。

 だが、ノルウェー国境に近い工場は何十年にもわたり、大きな汚染源にもなっていた。ノルウェーの全産業から出る4倍の二酸化硫黄を毎年排出し、周囲の植生を破壊し、大気を汚染してきた。

 しかし、タービンのうなる音は、今では静寂に取って代わられた。昨年12月に閉鎖されたニケリ工場の崩壊寸前の建物や時代遅れの機械は、2029年までに解体される。

■教訓

 ニッケル製錬所の閉鎖は、環境に配慮した企業に変容しようとするノルニッケルの世界戦略の一環だ。

 きっかけとなったのは、北極圏で最大級とされる環境災害だ。昨年5月、同社が所有する火力発電所で燃料タンクが破損し、軽油2万トン以上が付近の湖や河川に流出したのだ。

 ロシア政府から約20億ドル(約2200億円)の罰金を科せられた同社は「重要な教訓を学んだ」としている。

 ロシアの北極圏開発に必要不可欠な歯車であるノルニッケルは向こう10年間で55億ドル(約6040億円)を投じ、設備の最新化、既存の汚染の除去、国立公園の支援などを行う計画だ。

 その具体策の一つとして、ムルマンスク州が位置し、ノルウェーおよびフィンランドと国境を接するコラ半島(Kola Peninsula)における排出量を、2021年末までに85%削減する目標が含まれている。

 現地子会社の幹部、マクシム・イワノフ(Maxime Ivanov)氏はAFPに「ノルニッケルはニケリとその周辺地域での汚染物質の廃棄を完全にストップした」と語った。

■「不十分」

 隣国ノルウェーはニケリ工場の閉鎖を歓迎。同国の環境NGO、ベローナ財団(Bellona Foundation)は工場閉鎖を「自然への贈り物」と形容した。

 2007年には同工場からの排出があまりに深刻で、ノルウェーの政府が国境付近の住民の避難を検討したほどだった。

 だが、新技術と排出量削減のために大規模な投資をいくら行っても、ノルニッケルの各工場が北極圏における大きな汚染源であることに変わりはない。

 環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)ロシア支部のエレーナ・サキルコ(Yelena Sakirko)氏は「かつて隆盛を誇っていた工場の閉鎖は、正しい方向への第一歩だ。だが数十億ドル相当の収益を得ている同社の生産量と比較すれば、十分とは言えない」と指摘する。

「北極圏の生態系は非常に脆弱(ぜいじゃく)で、再生には長い時間がかかる」と同氏は言う。「われわれから見れば、ここは人間の活動から保護されなければならない地域なのだ」 (c)AFP/Maxime POPOV