【5月20日 AFP】ガボンのパラリンピック選手ダビ・ムカニ(Davy Moukagni)は、陸上男子100メートルで11秒76の自己ベストを持っている。この夏の東京パラリンピックで表彰台を十分夢見ることのできる選手だ。

 ところが、政府やスポンサーからの資金援助が足りず、ムカニは雑草が生い茂り、とがった小石が転がるうらぶれた高校のグラウンドで練習を続けている。トラックもレーンの線が消えるほどぼろぼろだ。しかし残念なことに、ムカニと二人のチームメートはこうした環境にもう慣れてしまっている。

「初めてスターティングブロックを使ったのは、公式大会に出たときだった。パニックに陥ったよ」とムカニは明かす。

 それでも、首都リーブルビルからおよそ10キロ離れたオウェンド(Owendo)のこの練習場で、ムカニは勢いよく駆け出し、コーチの厳しい視線の下、100メートルと200メートルの練習に打ち込んでいる。ムカニは「ある物でやりくりしているよ。専用の器具はない。これぞまさにガボンという感じだけど、何とかやっている」と冗談めかし、表情をほころばせた。

 ムカニは5年前、ブルーリ潰瘍にかかって右腕を失った。ブルーリ潰瘍は細菌が皮膚と骨を攻撃し、大きな傷を残す恐ろしい感染症だ。

 経営を学ぶ学生でもあるムカニには、スポンサーがおらず、奨学金も得ていない。「着ているものは、全て自腹で購入した」とムカニは話す。ガボンパラリンピック連盟(FEGOPH)の会長は「われわれのパラアスリートは皆ファイターで、ごく限られた手段を活用して練習している」と語った。

 石油資源の豊富な人口200万人の国ガボンは、2008年の北京大会で初めて選手団をパラリンピックに派遣し、2012年ロンドン大会、2016年リオデジャネイロ大会にも出場したが、まだメダルには手が届かずにいる。連盟にも以前は5000万CFAフラン(約1085万円)の年間予算があったが、石油の輸出でもうける一方、需要の落ち込みにも直面した政府は、2014年を最後に資金拠出を取りやめた。

 会長は「われわれには給料が払えないので、コーチは皆ボランティアだ」と認め、「ほとんどは、体育教師として生活している」と明かした。

 コーチのランドリー・リニャブー(Landry Lignabou)氏は、100メートルの練習に励むムカニを見つめ、最高速に到達しようとする教え子に「上げて上げて!」と叫ぶ。そして走り終えたムカニに「体を起こすのがちょっと早すぎた」と伝える。

 2003年から連盟でコーチを務めるリニャブー氏は、劣悪な練習環境を嘆き、これではメダル獲得の望みは限りなく薄いと漏らす。