【3月17日 東方新報】長いお茶文化の歴史を誇る中国で、コーヒーが浸透しつつある。大手コーヒーチェーンに加えて個人経営の店舗も次々と誕生。カフェで本格コーヒーを味わうことが文化的生活の象徴にもなっている。

 上海市ではこの5年間で地下鉄や街角、住宅街など多くの場所にカフェが林立。総店舗数は1万店を超えた。中国全体のコーヒー市場は3000億元(約5兆円)とされる中、上海だけで1000億元(約1兆6775億円)規模に上る。障害者が従業員をしている「公益サービスカフェ」や、認知症の高齢者のための「メモリーカフェ」といった特徴的な店舗も誕生している。ある学者は、都市の発展の度合いを「コーヒー経済」で判断できると提唱している。カフェの店舗数や売上高、店の個性などから都市の成長力や文化力を見極められるという。

 中国人にとって飲み物といえば、お茶。暖かいお茶を入れた水筒を持参して通勤し、茶葉とお湯を継ぎ足して何度も飲むのが伝統的スタイルだ。一方、かつて中国でコーヒーといえばインスタントが当たり前で、粉末のコーヒーとミルク、砂糖がまとめて入ったパッケージが主流だった。缶コーヒーや瓶のコーヒーも売られるようになったが、ブラックは少なかった。その後、スターバックス(Starbucks)の進出や中国企業のチェーンが普及し、本格的コーヒーも広まっていった。

「インスタントや缶コーヒーからひきたてのコーヒーへ、嗜好(しこう)はどんどん進歩しています」。西安市(Xi’an)で4年前にカフェを始めた代暁天(Dai Xiaotian)さんは力説する。チェーン店より多くの種類の豆をそろえ、一人一人の客の好みに合わせたコーヒーを提供。店を訪れる多くが常連客で、静かで落ち着いた空間でコーヒーを楽しんでいるという。

 同市で昨年カフェを始めた黄静(Huang Jing)さんの店舗は、わずか18平方メートル。詩や書評などを書く趣味を生かし、店内で読書会や詩の朗読会などを開き、「差別化を図っている」という。中国では生活に余裕のある若い女性を中心に「悦己(自分を喜ばせる)消費」が拡大しており、カフェでおいしいコーヒーを飲み、文化的な雰囲気を味わうのもその一つ。西安市は「カフェ建設3か年計画」を発表し、都市の成長や魅力向上のためカフェを増やそうとしている。

 遼寧省(Liaoning)瀋陽市(Shenyang)にある清朝の離宮・瀋陽故宮(Mukden Palace)では2月26日、「荘琲」というカフェがオープンした。店内は清朝文化をイメージしたデザインで、瀋陽故宮博物院(The Shenyang Palace Museum)の李声能(Li Shengneng)館長は「伝統文化と流行を融合させた」と胸を張る。かつて北京の故宮(Forbidden City、紫禁城)にスターバックスが店舗を構え、テレビキャスターが「中国文化を踏みにじっている」と批判。2007年に閉店に追い込まれる騒動があったが、時代は大きく様変わりした。

 2019年の調査によると、中国人の年間コーヒー消費量は前年比15ポイント増加した。世界平均の2ポイント増と比べると、その急増ぶりが分かる。それでも中国人1人あたりで計算すると、年間コーヒー消費量はわずか7.2杯。今後さらに需要が広がりそうだ。(c)東方新報/AFPBB News