【3月11日 東方新報】中国は2020年、米国を抜いて初めて欧州連合(EU)最大の貿易相手国となった。中国はEUと貿易促進に関する協定を立て続けに合意しており、関係をさらに深化させようとている。中国との対立が続く米国とEUの間にくさびを打ち込んでいるとの見方もある。

 EU統計局(Eurostat、ユーロスタット)によると、2020年のEUと中国の貿易総額は5860億ユーロ(約75兆6116億円)となった。このうち中国からの輸入は医療品、電子製品、家具、繊維、おもちゃ、自転車などで前年比5.6%増の3835億ユーロ(約49兆4830億円)。中国への輸出は電気機械製品、輸送設備、化学製品などで2.2%増の2025億ユーロ(約26兆1286億円)。コロナ禍においても輸出入ともに前年を上回った。

 一方、EUと米国の貿易総額は5550億ユーロ(約71兆6117億円)に減少。米国からの輸入は前年比13.2%減の2020億ユーロ(約26兆641億円)、輸出も8.2%減の3530億ユーロ(約45兆5476億円)にとどまった。

 中国は昨年、新型コロナウイルスの流行で第1四半期は経済的に打撃を受けたが、コロナ禍を早期に収束させたことで国内消費が回復。昨年末の消費は前年の水準を上回り、欧州製の自動車や高級品などの受け皿となった。EU諸国では医療・電子機器の需要が高まり、中国がその供給先となった。

 昨年の中国-欧州間の貨物列車の運行本数は前年比50%増の1万2406本と大幅に増えた。中国から欧州20か国に939万点の医療物資を届け、アウディ(Audi)の中国での販売台数は過去最高の72.7万台に達した。

 中国にとってEUは、2019年までに16年連続で最大の貿易相手国。EUにとって中国は15年連続で第2位の貿易相手国だった、ついに「米国の壁」を突破したことに、中国外務部の華春瑩(Hua Chunying)報道局長は記者会見で「中国と欧州が強固な関係を築いている証しだ。この関係はさらに大きく発展する余地がある」と称賛した。

 中国とEUは2020年9月、約10年にわたる交渉の末、農産物の貿易を促進するための「地理的表示協定」を締結した。日本で言えば「神戸牛」「青森産リンゴ」など、産地名とリンクして品質や評価が確立している産品の名称を知的財産として保護するもの。農家や関連企業の権利・利益保護と消費者の安心感醸成につながる。

 また、中国とEUは昨年12月30日、投資協定の締結に原則合意した。交渉は7年に及んだが、中国が求めてきた外資企業に対する技術移転の要求を取りやめ、企業補助金を巡る透明性を高めることも盛り込んだ。中国で事業展開する条件である中国企業との合弁も一部は撤廃する。習近平(Xi Jinping)国家主席は「高レベルの対外開放を促進する中国の決意と自信の表れだ」と述べた。

 投資協定により、欧州企業の中国市場へのアクセスが改善され、電気自動車、不動産、保険、広告、海運、通信など幅広い企業が恩恵を受けるとみられる。協定の合意は「中国側がEUの要求を受け入れ、譲歩した」という見方がある。米国では、EU諸国にもさまざまな要求を突きつけてきたドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領からジョー・バイデン(Joe Biden)大統領に政権が移行。米国とEUが協調路線を取り戻し、日本を含めた「対中包囲網」が構築されるのを中国が阻止するため、EUとの関係強化を図っているという見方もある。

 ただ、中国が貿易拡大を目指している相手はEU諸国だけではない。昨年11月には日本や韓国、東南アジア諸国、オーストラリアなど15カ国による地域的な包括的経済連携(RCEP)に合意。さらに同月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では、習氏は日本など11カ国による環太平洋連携協定(TPP)への参加を「積極的に検討する」と表明している。

 中国は経済成長を維持しながら内需拡大や経済構造の転換を進めており、国際貿易の拡大はそのけん引役となる。世界的なコロナ禍の逆風が続く中、中国は積極的に多国間貿易の枠組みを維持・拡大しようとしている。(c)東方新報/AFPBB News