【3月2日 AFP】フランスの歌手・作曲家のセルジュ・ゲンズブール(Serge Gainsbourg)の死から、2日で30年を迎える。新しい試みに挑戦し、また退廃的な響きのあるゲンズブールの音楽スタイルは、今なお米英のアーティストたちにとってよりどころとなる存在である。

 ゲンズブールの音楽は1990年代、ナズ(Nas)やウータン・クラン(Wu-Tang Clan)などの米国のヒップホップアーティストの曲でサンプリングに使用され、その後もマッシヴ・アタック(Massive Attack)やポーティスヘッド(Portishead)といったトリップ・ホップ勢、ビーチ・ハウス(Beach House)やテーム・インパラ(Tame Impala)といったドリーム・ポップのバンドなどに影響を与えた。

 ゲンズブールを継承する多くの人たちにとって、1971年リリースのアルバム「メロディ・ネルソンの物語(Histoire de Melody Nelson)」は指標となる重要作品だ。

 ゲンズブールの娘、シャルロット・ゲンズブール(Charlotte Gainsbourg)は「一般的にゲンズブールといえば『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ(Je t'aime... moi non plus)』だけど、音楽通にとっては『メロディ・ネルソン』こそすべて」だと語る。

 米ミュージシャンでインディー界スターのベック(Beck)も、自身の2002年の傑作「シー・チェンジ(Sea Change)」で「メロディ・ネルソンの物語」のサンプリング音源を多用した。

 ベックは「シー・チェンジ」のリマスター版のライナーノーツで、「野心とコンセプチュアルな深み、それらを引き出すのは本当に難しいけれど、ゲンズブールは『メロディ・ネルソン』でそれを完璧にこなしている。ロックバンドとオーケストラの最高のマリアージュの一つだ」と書いている。

 2016年、米雑誌「ピッチフォーク(Pitchfork)」はゲンズブールの影響力について、さまざまなミュージシャンがさまざまなインスピレーションを作品から得ていると指摘。

 最近のAFPのインタビューでも、英グループのジャンゴ・ジャンゴ(Django Django)やインディー・ソウルの新星アーロ・パークス(Arlo Parks)、有名映画監督を父に持つシンガー・ソングライターのバジー・リー(Buzzy Lee、本名サーシャ・スピルバーグ<Sasha Spielberg>)が影響を公言している。

 シャルロット・ゲンズブールにとっては、どれもが感動的な賛辞だ。

「きっと誇らしかっただろうと思う」

「生前には知る由もなかった称賛が、こんなにもあふれている。とても遅咲きだったこともあって、父は自分の成功を当たり前のものだと思っていなかった。(今の影響について)とても心打たれたことだろう」 (c)AFP/Philippe Grelard and Eric Randolph