【2月19日 東方新報】世界で530万人とされる留学生のうち中国人学生は最多の165万人に達し、世界の「留学生市場」の中心となっている。近年は長引く米中対立やコロナ禍により、留学先を米国から英国に切り替える中国人学生が増加。中国人留学生の存在は一国の経済にも影響を与えるほどの存在になっており、その動向が注目されている。

 中国教育省によると、海外に留学している中国人学生は165万6200人(2019年)。日本人の海外留学生11万5100(2018年度)と比べると、その規模の大きさが分かる。

 中国では経済成長により留学する余裕がある家庭が増える一方、高学歴化が進んでいるため「一流企業に入るには海外大学の学位が必要」と留学熱が高まっている。165万人の留学生の学び先は、米国が最多で41万人。米国の大学の国際的評価の高さやビジネスにおける米国の影響力、そして米国永住権の魅力などが理由に挙げられる。

 一方の米国は学費高騰の影響で大学生の数が年々減少しており、学生全体の5%を占める留学生は大学にとって欠かせない存在。米商務省によると、2018年の留学生の経済効果は450億ドル(約4兆7507億円)で46万人の雇用に貢献しているという。米国の大学及び経済を下支えしている留学生の3割以上を占めるのが中国人学生だ。米国の国別留学生で中国人学生は10年連続でトップを独走している。

 しかし、米国で2017年にドナルド・トランプ(Donald Trump)政権が誕生すると、中国と政治、経済、安全保障をめぐる対立が本格化。トランプ大統領は自らの白人支持層の雇用を確保するため、外国人の就労ビザや留学ビザを制限する動きも見せた。さらに2020年にコロナ禍が広がると、世界最大の被害を出している米国では大学はリモート授業が多くなり、留学生から「米国に来ている意味がない」という不満も高まっている。

 米国留学コンサルタントの趙鴻(Zhao Hong)氏は「2018年ごろから保護者や学生からの米国留学相談が減り始め、2020年はついに『氷河期』に入った」と嘆く。中国で留学支援事業を行っている企業・啓徳教育(EIC Education)が昨年7月に発表した調査によると、学生と保護者の留学志望先は英国が29%でトップとなり、米国を抜いた。

 英国は昨年9月に新学期を通常通り開始し、留学ビザ発行も継続している。さらに中国人学生が留学しやすいよう、中国の大学統一入試での点数を留学受け入れの参考にする大学も増えている。中国人学生の留学志望先はカナダやオーストラリアも多いが、カナダは新型コロナ対策で留学生の入国制限が厳しく、オーストラリアは中国と政治的対立が高まり、中国人留学生が襲撃される事件も起きている。「留学するなら英国」という流れが強くなっている。

 一方で、米国でトランプ政権が退陣し、ジョー・バイデン(Joe Biden)政権が誕生したことで風向きが変わりつつある。コンサルタントの趙鴻氏は「昨年の末から米国留学の相談件数が少しずつ増えてきた」と話す。さらに世界的に新型コロナウイルスのワクチン接種が広がり始めたことで、世界が日常を取り戻す可能性も見えてきた。ただ、米中の対立やコロナ禍が短期間で解消される見込みはなく、米国人気が復活するかどうかはなお時間を要するようだ。

 中国人留学生は日本でも多い。日本で学ぶ留学生31万2200人のうち中国人学生は最多の12万4400人を占める(2019年)。中国国際交流教育協会の陳志文(Chen Zhiwen)常務理事は「今後、日本への留学が増える可能性はある」と分析。日本は高等教育のレベルが高く、少子化により大学や就職で留学生のニーズが高いことや、留学費用が比較的安いことを挙げている。(c)東方新報/AFPBB News