【2月5日 AFP】コオロギとそれを捕食する鳥たちは、自然界の中で同盟関係にはない。だが、今週発表された二つの研究で、コオロギと鳥には共通の敵がいることが明らかになった。路上の騒音公害だ。

 研究室での実験により、車の通行があると、鳥のうち少なくとも一つの種で問題解決能力の著しい低下がみられ、またコオロギでは交尾能力の著しい減退がみられたという。

 英学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」に掲載された論文の最終著者で、米オレゴン州にあるパシフィック大学(Pacific University)の生物学者、クリストファー・テンプルトン(Christopher Templeton)氏はAFPに「走行する自動車の騒音が聞こえるだけで、鳴き鳥の認識能力は十分阻害される」と語った。論文の執筆陣によると、認知能力への騒音公害の影響を詳細に調べた研究は初めてだという。

 実験では「キンカチョウ」と呼ばれる鳥にさまざまなタスクを課し、人工的な騒音が全くない場合と、人間の存在感が強い半農村部を模した道路交通騒音を流した場合とを比較した。

 すると車の騒音にさらされながらの場合、例えば隠された餌の場所を思い出したり、好物が入った容器にかぶせられた紙のふたを取り除いたりするのに、2倍以上の時間がかかった。

■子孫の生存に影響

 もう一つの研究は、学術誌「行動生態学(Behavioral Ecology)」に3人の科学者が発表した。「フタホシコオロギ」と呼ばれる一般的なコオロギを用いた実験で、交通騒音が交尾行動を妨害し、その結果、性淘汰(とうた、性選択)と進化プロセスも妨害されるというものだ。

 フタホシコオロギの交尾の儀式は、雄が自分の羽をこすることから始まる。雌はその「歌の質」を聞き分け、自分とつがいとなるのに適した雄かどうか判断する。

 実験では雄のコオロギの羽に外科的処置を施して音を奏でる能力を無効化し、代わりに質が「低い」あるいは「高い」、録音された「歌」を流した。

 英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)で動物学を専門とする研究員で、論文の主著者のアダム・ベント(Adam Bent)氏は「これらのコオロギの前羽は、痛みの受容体を持たない硬いキチン質でできているので、羽を切っても危害や苦痛を引き起こすことはなかった」とAFPに説明した。

 次にこうして沈黙させた雄と雌を一緒に置き、3種類の音環境、すなわちホワイトノイズ(全ての周波数帯域でエネルギーが均一に混入した雑音)、交通騒音、さらに騒音を加えない状態で、録音された低・高音質の雄の鳴き声をそれぞれ流した。

 その結果、ホワイトノイズまたは交通騒音がある場合は、交尾態勢に入るのに2倍の時間がかかった。また実際に交尾を完結させたのは、70%程度にとどまった。

「つがいとなる相手の選択は、子孫の繁栄と生存に大きく影響する」とベント氏は言った。「これは、この種の進化を混乱させる可能性がある」 (c)AFP/Marlowe HOOD