【1月23日 東方新報】昨年冬、新型コロナウイルス感染症のためロックダウン(都市封鎖)された中国・湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)で、医療従事者に無償で弁当を送り続けた20代の女性がいた。防護服代わりにレインコートをまとった女性は「レインコート姉さん」の愛称で呼ばれ、医師らの心と体に栄養を送り続けた。その活動が国連にも称賛された彼女はいま、故郷の四川省(Sichuan)で貧困児童の就学支援に励んでいる。

 女性の名は劉仙(Liu Xian)さん。四川農業大学(Sichuan Agricultural University)を卒業後、成都市(Chengdu)で会社や病院などに仕出し弁当を届けるビジネスを起業。全国で100店舗以上を展開する若き経営者だ。武漢市がロックアウトされていた昨年2月初め、「武漢の病院では患者の食事を作るのが精いっぱいで、医師や看護師らは毎日カップ麺を食べている」とニュースで知り、「私たちが医療従事者の食事を支えよう」と決意。2月3日に調理スタッフと共に成都市から車で10時間をかけ武漢市に到着し、翌4日から無償で弁当の配達を開始した。

 当初は医療物資がないため、劉さんは毛糸の帽子にスキー用ゴーグル、レインコート姿で配達を続けた。病院が余った防護服を劉さんに渡そうとしても遠慮した。マスコミの取材依頼が来ると、「食料を持ってくること」を条件に受け入れた。毎日200キロの肉を調達し、400~600人分の弁当を届けた。栄養バランスを考えて、「ご飯に肉のおかず2品、野菜のおかず1品」というメニューを守り続けた。各病院では劉さんを「レインコート姉さん」と呼ぶようになり、彼女が運転する「四川A」ナンバーの車両が走ると、警察官が路上で敬礼をするようになった。

 やがて彼女の活動を報道で知った人々が全国からボランティアとして集まり、「レインコート隊」が誕生。弁当以外に医療支援物資、生活物資も運ぶようになり、地元では「レインコート隊に一声かければ、風のように100人が集まる」と言われた。劉さんは3月後半まで休みなく活動を続け、届けた弁当は2万食、届けた物資は3500万元(約5602万円)相当に達した。劉さんとレインコート隊の活躍は「小さなレインコートが大きな傘になった」とたたえられた。

 劉さんはその後、地元四川省から表彰を受け、昨年4月には国連事務総長ユース担当大使から「新型コロナウイルスに立ち向かう世界の若者10人」の1人として紹介された。

 劉さんは「公益法人レインコート」という団体を設立し、今もボランティアを続けている。四川省の表彰式で、山あいの小さな学校に通う貧困児童を手弁当で支援している教師と出会い、就学支援活動に打ち込んでいる。大学でEコマースを専攻していた劉さんは昨年10月から、インターネットのライブ配信を通じて地元の農産物を販売する活動を開始。3か月で1万6000品を販売し、8万元(約128万円)を稼いだ。これに公益法人レインコートから3万元(約48万円)を追加。今月に入り、四川省・涼山イ族自治州(Liangshan Yi Autonomous Prefecture)越西県(Yuexi)で、約100人の小中高校生に就学援助金を手渡した。小学生に600元(約9603円)、中学生に1000元(約1万6000円)、高校生に1200元(約1万9207円)で、今後も3か月ごとに贈る。児童、生徒たちは会場で劉さんらに感謝し、「未来の涼山のために頑張るぞ!頑張るぞ!」と声を上げた。

「子どもたちは『将来は教師になりたい』、『警察官になる』『科学者を目指します』とそれぞれ目を輝かせている。私にとっても励みになります」と劉さん。「古くから『雪中送炭(雪の中に炭を送る=苦しい時に手助けをする)』という言葉がありますが、私は『錦上添花(錦の上に花を添える=美しいものをより美しくする)』という言葉の方が好きです。そんな思いで活動を続けていきます」と笑顔を浮かべて話した。(c)東方新報/AFPBB News