■「化石燃料の使用は奴隷所有と同じ」

 時に「批判する少数派」だけでも十分、転換点まで行き着くことがある。これは転換点の影響が広く一般に見えるようになる前に起き得る。

 投資分野では草の根レベルの活動が、ファンドマネジャーやその顧客に化石燃料関連株を手放すよう圧力をかけていると言うのは、オーストリア・グラーツ大学(University of Graz)のイローナ・オットー(Ilona Otto)氏だ。同大の気候・地球変動研究所(Wegener Center for Climate and Global Change)で、社会の複雑性とシステム転換の研究チームを率い、2050年までに地球気候を安定させるために必要な社会動態に関する論文で筆頭著者を務めた。

「シミュレーションによると、投資家の約9%が株を売却すれば、残りの投資家も後を追う。取り残されて損失を被るのが嫌だからだ」。気候変動に関連する株を売却する動きは、社会正義の目標と結びつき、18世紀後半から19世紀にかけて起きた奴隷制廃止運動のうねりと似ているとオットー氏は指摘した。どちらもかたくなに変化を拒む経済システムと関わる動きだ。

 奴隷を動産として所有・売買する奴隷制度は長らく認められていたが、急速に瓦解(がかい)し、道徳上、正当化できないとみなされるようになった。「化石燃料エネルギーの利用も、奴隷所有と同じくらい受け入れがたいとみなされるときが来る」とオットー氏は言う。

 一方、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)さん(18)らの活躍もあり、2019年に注目された気候変動を阻止する地球規模の草の根運動は、新型コロナウイルスの世界的大流行で活動が見えにくいものの現在も勢いを増している。

 世界50か国で120万以上を対象とする調査の企画に携わった英オックスフォード大学(Oxford University)の社会学者スティーブン・フィッシャー(Stephen Fisher)氏は「気候非常事態に対する懸念は、以前にも増してはるかに広がっている」とAFPに述べた。「その上、気候非常事態を認識している人々の大多数が、包括的な緊急対策を望んでいる」

 道徳性以外にも、大きな社会的移行の過程では、現状を否定し新たな規範を採用することが、経済的に最も理にかなった選択となる場合がある。

 米サンフランシスコ大学(University of San Francisco)のジェームズ・ウィリアムズ(James Williams)教授は、共和党優勢の州でさえ、太陽光パネルは人気があると語る。同教授は米国が2050年までにカーボンニュートラルを実現するためにはどうしたらよいかを示した論文を筆頭著者として最近発表した。

 一方、北京工業大学(Beijing University of Technology)生態文明研究所(Institute of Eco-civilisation Studies)の藩家華(Pan Jiahua)所長は米シンクタンク「大西洋評議会(Atlantic Council)」とのインタビューで、中国政府は最近までカーボンニュートラルという概念を経済的な重荷と考えていたと述べた。

 しかし現在では、カーボンニュートラルは「雇用、成長、そして社会変革の機会だというのがわれわれのコンセンサスだ」と藩氏は続けた。

 このように広がっている共通認識には、化石燃料を世界経済の原動力とすることは、もはや私たちが知る文明とは相いれないという考えも含まれている。