【1月16日 AFP】新型コロナウイルスの感染が拡大するメキシコで、家族が死と向き合い、乗り越える一助となるように亡くなった人の洋服でテディベアを作る活動が行われている。

 裁縫師のエレンディラ・ゲレロ(Erendira Guerrero)さん(55)は、以前はメキシコでの新型ウイルスの感染拡大を防ぐためにマスクを作っていた。今は、自分が作るぬいぐるみで人々が「気持ちに区切りをつける」手助けをすることを目標にしている。嘆き悲しむ家族に対し、最初はテディベアを亡くなった家族の一部と見なし、いずれは、ただのぬいぐるみと考えるようになってほしいと考えている。

 ゲレロさんはソーシャルメディアで注文を受け付け、テディベアを1体600ペソ(約3100円)で制作している。

 アラセリ・ラミレス(Aracely Ramirez)さん(50)は、父親が着ていた格子じまの上着でぬいぐるみを作ってもらった。

 ラミレスさんは、「父は、とても暖かいこの上着を気に入っていた。フランネルでできていて、手に取るたびに、私の手の中、私の人生の中に父の一部を感じている」と話す。

 ラミレスさんのテディベアには、こんなメッセージが刺しゅうされている。「これは私が着ていた服だよ。抱きしめるたびに私がここにいると思ってほしい。愛を込めて。パパより」

 公式のデータでは、メキシコの新型コロナウイルスの累計感染者は16日時点で約159万人。死者は13万8000人近くに上り、米国、ブラジル、インドに次いで世界で4番目に多い。

 医療体制は多くの地域、特に首都メキシコ市で逼迫(ひっぱく)している。

 感染拡大を防ぐための措置により、多くの人々が家族の臨終に立ち会えず、きちんとした葬儀を行えずにいる。

 ラミレスさんも多くの人々と同様、父親の通夜を行えず、埋葬に立ち会えたのはラミレスさんを含め8人の家族だけだった。

 ラミレスさんは、テディベアの存在が「父が亡くなったことを理解し、父に別れを告げて、父が教えてくれたこと、与えてくれたものすべてに感謝する」上で力になってくれたと語る。(c)AFP