■路上の子どもたちの博物館

 コロナ禍前、博物館は年間10万人以上の訪問者を迎えていた。その多くは、西アフリカ固有の「タリベ」と呼ばれる子どもたちだ。

 タリベの子どもたちは、親から送り込まれるイスラム教の教育施設でコーランを学ぶはずが、おおむね路上の物乞いとして日々を過ごすことになる。タリベの多くにとって、博物館は格好の逃げ場となる。

 くたびれ汚れた服を着ていたイスマエル・マリアマ(Ismael Mariama)君(12)も、そんなタリベの一人だ。「動物を見に来たんだ。サル、ライオン、ワニとか」と語る。ニアメー市北部の荒廃した地区から来たというマリアマ君は、「みんな見ちゃった」とつぶやき、おりの中のサルにビスケットを与えた。

 マリアマ君は、工芸品の展示コーナーにあった革製の靴にも興味を持ったという。ママネ館長が特に誇りとしているのが、その工芸品コーナーだ。

 そこは彫刻家、画家、陶芸家、革細工師たちが作品を販売できるショーウインドーでもある。彼らは民族的に多様なニジェールの各所から集まっており、「国の結束」の象徴だと館長は誇りを持っている。

 革細工師のアリ・アブドゥライ(Ali Abdoulaye)さんは、コロナで厳しい状況だが、博物館があるので助かるという。「この頃は、安い中国製品に職人たちが負けている…でも(中国製の)ハンドバッグは買って、2~3日で壊れてしまう」

 メインホールの数メートル先にあるのが、人気の展示である恐竜時代の「怪物」3体の骨格標本だ。フランスの古生物学者フィリップ・タケ(Philippe Taquet)氏が発見した、全長11メートルの巨大ワニ「サルコスクス・インペラトル(Sarcosuchus imperator)」の化石もある。