【1月1日 AFP】すしを食べたことがあるなら、ワサビも食べたことがあると思うかもしれないが、それは加工品だった可能性が高い。日本のワサビ生産者に言わせると、本場のワサビ、「緑の黄金」とは全くの別物だ。

 日本料理が好きな多くの人にはなじみのある、鼻につんとくる色鮮やかなワサビは加工品で、実際はセイヨウワサビ(ホースラディッシュ)が調合されている。生ワサビは薄緑色をしており、辛味はマイルドで、複雑な風味がある。

 だが日本国内でも、普段は生ワサビにはめったにお目にかかれない。ワサビのごつごつした根茎は非常に栽培が難しいため、高価格となり、大半が卸売業者に買い占められてしまうからだ。

 静岡県伊豆半島の山腹にある緑豊かなワサビの栽培地、筏場(いかだば)で、水を張ったワサビ田からワサビの根を引き抜きながら、塩谷美博(Yoshihiro Shioya)さん(62)はAFPに、「一番必要なのはきれいな水ですよね。それもふんだんに」と語った。塩谷さんは、地元で7代続くワサビ農家だ。

 水温は一年中、ワサビが成長するのに適温の10度から15度に保たれている。「ワサビの成長に対して水というのは必須条件だと思うんです。いいもの育てるために水がなきゃだめだから」と塩谷さんは話す。

 おいしいワサビを育てる秘訣(ひけつ)は忍耐だ。特別に設計された大きな人工の棚田でワサビが成長するまでに1年から1年半かかる。

 伊豆の農業協同組合の小播安章(Yasuaki Kohari)さんは、天城山頂から水が流れ落ち、棚田に敷き詰めた小石や砂の層で水がろ過され、不純物が取り除かれると説明する。

 ワサビが収穫時期を迎えると、先が丸い緑の葉になっている茎が付いた長い根茎を手作業で引き抜く。葉柄を取り除き、根茎部分をかごに入れて運んで行く。

 昨年、日本国内で栽培された新鮮なワサビは550トン(根茎のみ)。その約半分が静岡産だった。

 静岡ではワサビが自生し、数百年も前から郷土料理に使われてきた。言い伝えでは、ワサビを大層気に入って普及させたのは徳川家康(Ieyasu Tokugawa)だとされる。今日では、ワサビは主に東京や大阪の高級レストランに仕入れられている。