■利益最優先

 だが、文化財保存を専門とする建築家のコルハン・グムス(Korhan Gumus)氏は、近年のEUからの疎外と、エルドアン氏の政策の強硬路線への転換が状況を一変させたと語る。

 グムス氏は「修復事業の入札は優遇された企業間で行われ、独占状態です。そして事業の目的は、何よりも利益が最優先されます」と嘆く。

 同氏によると、それぞれの文化財が持つ歴史が事前に熟考されることはない。何百年も何千年にもわたって「異なる文明によって付け加えられてきた部分」を保存するのではなく、建造時の「原形の再現ばかりが叫ばれ、悲惨な結果を生んでいます」という。

 米ピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)の研究者、トゥグバ・タニエリ・エルデミル(Tugba Tanyeri Erdemir)氏は、トルコ政府は文化遺産を保護するよりも支配したがっていると指摘。今年決定されたアヤソフィア(Hagia Sophia)のモスク化を例に挙げた。

 国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産(World Heritage)であるアヤソフィアは今から約1500年前、キリスト教国家のビザンツ(Byzantine)帝国時代に大聖堂として建造された。1453年にオスマン(Ottoman)帝国が首都コンスタンティノープル(Constantinople、現イスタンブール)を征服した後、モスクに改造され、1935年からは博物館として公開されていた。だがエルドアン大統領は今年7月、アヤソフィアを再びモスクとすることを決定した。

 市当局の文化遺産担当責任者マヒル・ポラット(Mahir Polat)氏は、文化財の消失とともにイスタンブールの記憶が消えゆくことを懸念する。

「都市の記憶は、その生活空間と密接に関わっています。私たちは歴史ある建物と共生し損ねたのです」とポラット氏は嘆く。「自分たちが手にしている宝物に気付けることを願っています」 (c)AFP/Burcin GERCEK