【12月16日 東方新報】活字離れや電子書籍の普及により、街角から書店が姿を消す話題は世界各国でよく聞かれるが、中国では近年、「史上最多」というほど書店が増え続けている。その背景には「経済力」「文化力」「政治力」それぞれの要素があり、現代中国の横顔をまさに反映している。

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 統計によると、11月時点で北京市内の書店は1910店。昨年よりなんと611店増え、1年間で1.5倍近く増えた。中国では1970年代までは国営の新華書店(Xinhua Bookstore)しかなく、全国で1万店舗もなかったが、2019年の全国の書店数は16万店舗を数え、史上最多といわれている。

 中国では2002年から2012年にかけて国内の書店の半数近くが閉店する「本屋厳冬の時代」もあった。家賃の高騰とインターネットの影響だった。「書店でお気に入りの本を探し、ネットで、5~6割引きで買う」というのが市民のライフスタイルでもあった。それがこの5年ほどで激変した。

 まずは「経済力」。

 中国では毎年、500~600の巨大ショッピングモールが開業している。営業主は施設の「格」を上げるため、文化の薫りがする書店を求める。美しい教会や前衛アートのような内装の書店が次々と誕生。消費力旺盛な客がおしゃれな書店に立ち寄った後、レストランで食事し、ショッピングを楽しめばいいという戦略だ。書店単体で稼ぐ必要もないため、家賃の減免や設備の援助までしている。

 次に「文化力」。

 書店も当然、営業主の戦略にあぐらをかいているわけでなく、収益を上げようとしている。コーヒーや軽食を用意してじっくり本を読める「居場所作り」をして、さらに工芸品や美術品も売るのが当たり前。「モノ」から「コト」へ移った消費スタイルに合わせ、コーヒーの入れ方や教室、フラワーアレンジメント、音楽教室など多彩な無料・有料のイベントを開催。年間300以上のイベントを開き、「書籍以外の収益が多い書店」は珍しくなくなった。書店関係者は「書籍の粗利率は30%程度。コーヒーなら50%、イベントはアイデア次第でいくらでも稼げる」と説明する。

 さらに「政治力」が背景にある。

 中国政府は近年、「全民閲読(国民読書)」運動を提唱し、中央政府や地方政府が書店に財政面の補助もしている。国民の文化力を底上げして消費を高めることを、経済の成長戦略の一つとしている。国民に政府の政策を広めるため、リアル書店の存在は欠かせないという狙いもある。

 もちろん書店業界がすべて「バラ色」というわけでもない。2019年上半期の書籍小売市場は前年同期比10.8%増だったが、実店舗の売り上げは11.7%減。書店ブームもピークを越える傾向もみられている。

 今年に入っては、新型コロナウイルスが大きな打撃となっている。書店ブームを象徴する店舗の一つ、広州市(Guangzhou)が拠点の「1200ブックショップ」は半数以上の店舗を閉鎖した。「24時間営業」「無料読書エリア」「自分の思いを書き込む張り紙スペース」など斬新なスタイルで若者の心をつかみとったが、コロナ禍で市民が自宅待機を強いられ、苦戦を強いられた。

 最近の中国は新型コロナウイルスの抑制に成功し、書店にも客が戻りつつある。ただ、ショッピングモールや政府の書店優遇策も今後も続くとは限らない。「熱しやすく冷めやすい」傾向が強い中国で、新しいソフトパワーが誕生すれば、マネーや政策の力点がすぐに移行する。中国の書店ブームが今後どうなるか。それは中国社会の変化を映す「鏡」となる。(c)東方新報/AFPBB News