【12月17日 AFP】世界の富裕国が供給量に限りのある大手製薬会社の新型コロナウイルスワクチン確保に奔走する中で、中国は積極的に、資金力の弱い国々に中国製ワクチンの提供を申し出ている。だが、その気前の良さは100%利他的なものとはいえない。中国政府が求めているのは外交上の長期的な見返りだ。

 この戦略には、新型コロナ流行初期の中国政府の対応への怒りや批判をかわし、中国のバイオテクノロジー企業の知名度を上げ、アジア内外での中国の影響力を強化・拡大するなど、複数のメリットがある。

「中国が、悪化したイメージの回復を図ってワクチン外交を展開しているのは間違いない」と、米外交問題評議会(CFR)上級フェローの黄延中(Huang Yanzhong)氏はAFPに指摘した。ワクチン外交は「中国の世界的影響力を増大し、地政学的な諸問題を(中略)解消するためのツールとなりつつある」という。

■米国不在の保健分野をリード

 中国政府はパンデミック(世界的な大流行)の初期には、マスクや防護服などの大量輸出を急ぎ、医療が逼迫(ひっぱく)していた欧州・アフリカ各地に医療チームを派遣した。そして今、欧米の製薬会社がワクチンの供給を始める中で、自国製ワクチンの大量供給を開始し、次々と合意を結んでいる。相手国には、中国との関係がぎくしゃくしている国も含まれている。

 中国の外交官がワクチン供給合意を取り付けたマレーシアとフィリピンは、いずれも南シナ海(South China Sea)への中国進出に苦言を呈してきた。8月に李克強(Li Keqiang)首相がワクチン優先供給を約束したメコン(Mekong)川流域の国々は、中国が上流に建設したダムの影響でひどい渇水に見舞われ、干ばつが悪化している。

「公益」を掲げて世界中に中国製ワクチンを提供する習近平(Xi Jinping)国家主席の動きは、中国こそが世界の保健分野を主導する国だとアピールする機会になっていると黄氏は言う。米国がドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領の「米国第一主義」の下でなおざりにしてきた役割を、中国がここぞと肩代わりした格好だ。

■「健康のシルクロード」

 中国は、低・中所得国のワクチン市場のわずか15%を獲得しただけで約28億ドル(約2900億円)の純利益を見込めると、香港の安信証券(Essence Securities)は試算する。

 全世界でワクチン接種を推進するためには、超低温での輸送を可能にする低温物流網(コールドチェーン)や保管施設の整備も必要だが、CFRのカーク・ランカスター(Kirk Lancaster)氏はこれらの事業について、習氏が1兆ドル(約103兆円)を投じて推進する巨大経済圏構想「一帯一路(Belt and Road)」にうまく調和すると指摘する。

 すでに電子商取引(EC)大手アリババ(Alibaba、阿里巴巴)は、アフリカ・中東へのワクチン供給拠点となる倉庫をエチオピアとアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイ(Dubai)に建設した。また、中国政府はブラジル、モロッコ、インドネシアなどにワクチン製造施設を建設しているほか、中南米諸国に10億ドル(約1030億円)規模の資金提供を約束している。これらのインフラを、中国企業はコロナ後に利用できる。

「『健康のシルクロード(Health Silk Road)』と銘打たれた一連の取り組みは全て、中国の国際的な評判を回復しつつ、中国企業向けの新たな市場を開拓することにつながっている」とランカスター氏は語った。(c)AFP/Helen ROXBURGH with Poornima WEERASEKARA in Colombo