【12月20日 AFP】エジプトの首都カイロ近郊の「死者の街」で、広大な歴史的墓地の一画が活気あふれる地区へと姿を変えつつある。数世紀前にさかのぼる建造物の修復や伝統工芸の復興が進められているのだ。

 カイロの東にある15世紀に建てられたモスク「スルタン・カーイトバーイ(Sultan Qaitbay)」の周辺では、吹きガラスなどの工房に最近、木工や皮革、宝飾品などの工房が加わった。

 このモスクはエジプトの1ポンド紙幣にも描かれているマムルーク(Mamluk)朝の有名な建築物だが、その周りを取り囲んでいるのは、巨大な墓地とほこりっぽい裏通り、スラム街同然の家並みだ。

 7世紀にできたイスラム教の墓地は6.5キロにわたって広がっている。ここには、カイロのとてつもなく高い家賃を払えない多くの人々が住んでいる。

 だが、2014年以降、欧州連合(EU)が出資する一連のプロジェクトにより、この墓地の一画が一変している。取り組みは6年前、最初に動物の水飲み場、次に住居部分の玄関口の改修から始まった。

 プロジェクトのまとめ役で建築家のアグニエシュカ・ドゥブロフスカ(Agnieszka Dobrowolska)氏は、この地域の変貌にあたって中心的役割を果たした。歴史的建造物の修復、工房とその看板の改装、マムルーク朝のモチーフをデザインした宝飾品や皮革製品の製作を監督した。

「最初にここに来たとき、私たちの主な目的は建造物を保存することでした」とドゥブロフスカ氏。「でもすぐに、今ここで暮らし働く人々をないがしろにして単に建造物を保存することはできないと気付いたのです」

 工房での作業は今年、新型コロナウイルス流行の影響を受けて数週間休止されたが、今また約50人の女性たちが地域ブランド「ミシュカ(Mishka)」の革製品やジュエリー作りにいそしんでいる。

 革工房で働き始めて3年というアイダ・ハッサン(Aida Hassan)さんは、1か月に1500エジプト・ポンド(約1万円)かそれ以上稼ぐことができてうれしいという。今では他の女性たちにも革工芸を教えている。

 地区では科学から英語、スポーツまでさまざまな科目のコースやワークショップが開かれ、何百人もの女性や子どもらが恩恵を受けている。

 また、ジャズから民族音楽、エジプトの伝統音楽にいたるコンサートが開催されたり、国内外の視覚芸術家らの作品展が行われたりしている。

 ドゥブロフスカ氏は、この街に現代の芸術と文化を持ち込むことで「文化的、芸術的表現の多様性を高め、東西に橋を懸けたい」と語る。さらにこのプロジェクトのもう一つの願いは、街が変わることによって観光客を引き寄せることだ。

 古い共同墓地である「死者の街」は迷信の対象とされることも多く、カイロ観光の中心となる場所ではない。

 だが、このプロジェクトが狙っているのは、普通の枠を超えたものを求める観光客だとドゥブロフスカ氏は語る。「私たちが求めているのは、一般的なコースに飽き足らない観光客です。死の街の独特な都会的特徴を味わい、楽しむことができる人々なのです」 (c)AFP/Mohamed Abouelenen and Emmanuel Parisse