【12月6日 AFP】エジプトの西方砂漠(Western Desert)にひっそりと立つシャリ(Shali)要塞(ようさい)は、かつては遊牧民の侵略から住民を守ってきた。現在は、修復されたこの要塞が、エコツーリズムの観光客を呼び寄せることが期待されている。

 13世紀にベルベル(Berber)人が造った大規模なこの要塞は、首都カイロから600キロほど南西の、手つかずのシワ(Siwa)オアシスの丘の上に立つ。「シャリ」は現地の言葉「シウィ(Siwi)」で「家」を意味する。

 要塞は泥、塩、石を混ぜた「カルシフ(kershef)」と呼ばれる素材でできている。夏は焼けるように暑いこの地域で、天然の断熱材の働きをする。

 要塞が風化し、さらに約100年前に豪雨被害に遭っていることを受け、欧州連合(EU) と、エジプト企業の「エンバイロメンタル・クオリティー・インターナショナル(EQI)」は2018年、60万ドル(約6200万円)超を投じて要塞の修復プロジェクトを開始した。

 周囲にはヤシの木が茂り、泉や塩湖が点在するシワオアシスは、地理的にも文化的にも外界から切り離されている。このため、にぎやかな都会から離れた環境に優しい旅行先となっている。

■雇用創出のチャンス

 シワに観光客が引き付けられはじめたのは1980年代。地中海に面した北西部の都市マルサマトルーフ(Marsa Matrouh)とシワを結ぶ道路が政府によって建設されてからだ。

 シャリ要塞の修復作業は政府の後援のもと実施された。政府はシワを世界的な「エコツーリズムの旅行先」にしようと、後押ししてきた。

 このプロジェクトには、伝統的な市場の設営と地域の建築を紹介する博物館の設立も含まれる。

 シャリ要塞で手工芸品を販売しているアダムさんは「確かにプロジェクトのおかげで、私たちは恩恵を受けるでしょうし、観光客も増えそうです。今では私は、シャリの中でヤシの葉で作った工芸品を売ることができます」と語った。

 この10年間に外界で起きた出来事の影響はシワにも波及しており、2011年にエジプトをはじめ中東諸国を揺るがした政情不安を受けて、シワの観光業は停滞した。

 地元の観光局長を務めるマディ・フウェイティ(Mahdi al-Howeiti)さんによると、2010年には2万人ほどいた外国人旅行客は、わずか3000人にまで減少した。この激減を国内旅行者がわずかに和らげている程度だという。