【12月19日 AFP】デリケートなシルクの生地に施された手の込んだ刺しゅう、そして大きく広がった袖──。19世紀のベトナムの衣装は、現代都市の目まぐるしい生活様式に最適とは言えないが、ハノイの起業家グエン・ドゥック・ロック(Nguyen Duc Loc)氏(28)は、自分たちの先祖が着ていた伝統的な衣装を現代の生活によみがえらせることは可能だと確信している。

 独自にリサーチし、主に阮(Nguyen、げん、グエン)朝時代の服を11人の制作チームと再現しているロック氏は、「私の夢は、ベトナム人誰もがスーツやズボン、ワンピースと同じように、(祭事や慶事など)重要な行事で着るための伝統衣装を少なくとも1着は手元にそろえるようになること」だとAFPに語った。

 昔の王朝風の衣装の「見事な美しさ」を男性にも女性にも堪能してもらい、こうした服がベトナムの文化史に果たしている役割を理解してもらいたいと意気込む。

 ロック氏の手掛ける衣装は、当時の服と懸け離れているとの批判の声もあるが、若者の間で関心が広がりつつあるのも事実だ。

 ソーシャルメディアには、若い女性が伝統衣装に身を包んでいる写真が多く見られる。衣装を借りて写真撮影する人も多く、17ドル(約1800円)からレンタルできる。

 ロック氏がデザインした服を見に来た学生のファム・チャン・ニュン(Pham Trang Nhung)さん(22)は、今の若者は洋服の方になじみがあると思うとして、伝統衣装は「私たちが保存しなければならないベトナム文化の一部だと感じる」と話した。

 アート雑誌の編集長で伝統文化に詳しいグエン・ドゥック・ビン(Nguyen Duc Binh)氏は、伝統衣装が若者を引きつけるのは、自己顕示欲や自国に対する誇りからで、その点は他のアジア諸国の若者と変わらないと指摘する。「日本や韓国などの先進国では、伝統衣装は若者に一種の象徴として捉えられている」

 同氏は、ベトナムの若者たちはそうした国々の発展に憧れる一方で、自国の過去からたたえるべき「伝統的なものを見つけ出そうとしている」と説明した。(c)AFP/Alice Philipson and Tran Thi Minh Ha