【11月27日 AFP】エチオピア北部ティグレ(Tigray)州西部の町マイカドラ(Mai-Kadra)の教会には、敷地いっぱいに、たくさんの新しい墓が掘られていた。土の上には、疲れ果てた手が放り出したシャベルの横にレモンの香りの消臭剤の空き缶が幾つも転がっていたが、死臭をごまかすことはできていない。

 町中ではあちこちで何十人もの遺体が道端に放置され、埋葬されるのを待ちながら日の光を浴びて腐敗し始めていた。

 人口4万人のこの町で、恐ろしい事件が起きたことを否定する人はいない。何百人もの民間人が銃で撃たれ、刃物やなたで切りつけられ、刺されて虐殺されたのだ。

 だが、犠牲者らの存在は今、3週間に及ぶ紛争の当事者たちの間で、非難合戦の駒と化している。

■食い違う証言

 11月9日に起きた民間人の虐殺は、まず国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)によって明るみに出た。アムネスティは検証した写真と動画を公開し、エチオピア連邦政府軍と戦っているティグレ州政府与党「ティグレ人民解放戦線(TPLF)」側の勢力が、退却する際にマイカドラに住むアムハラ(Amhara)人を殺害したとの目撃証言を報告した。

 ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)受賞者のアビー・アハメド(Abiy Ahmed)首相率いるエチオピア連邦政府は、この証言に飛びついた。それは、TPLFに対する武力攻撃の必要性を補強する残虐行為の証しだった。

 連邦政府機関のエチオピア人権委員会(EHRC)は24日、ティグレ人の若者グループと地元警察や民兵組織が、民族に基づいて「前もって識別した」被害者少なくとも600人を虐殺したとする報告書を発表した。

 だが、マイカドラから隣国スーダンに逃げたティグレ人難民らは、虐殺を行ったのは連邦政府側の勢力だったと証言している。

■「民族浄化」

 AFPは先週、連邦政府軍が制圧したティグレ州内の地域に立ち入る許可を特別に得て、マイカドラを訪れた。アムハラ人の住民たちは口々に、町の近くまで戦闘が迫ったとき突然、ティグレ人の近隣住民らが襲い掛かってきたと語った。

「民兵と警官が発砲してきた。民間人はなたで襲ってきた」と、農場で働いていたアムハラ人男性(23)は病院のベッドの上で話した。横たわった男性の頭部を覆うガーゼから、ギザギザの傷痕がはみ出していた。「町の住民全員が関係者だ」

 新しく就任したマイカドラの行政官はアムハラ人の連邦政府支持者で、「アムハラ人に対して残忍な民族浄化が行われた」とAFPに語った。

 しかし、マイカドラから少し西に進み、スーダンとの国境を越えたところに急拡大しているウム・ラクバ(Um Raquba)難民キャンプでは、まるで異なる証言が聞こえてくる。

「エチオピア軍兵士とアムハラ人民兵が、町に入ってきて空や住民に向かって発砲した」と、多数の同胞と逃げてきたティグレ人の農家の男性(29)はAFPに話した。「私たちは、安全な場所を求めて町から逃げ出した。(軍服ではない)私服の男たちが、刃物やおので人々を襲っているのを見た」「通りという通りに、遺体が転がっていた」

 他の難民たちも同様に、襲撃してきたのは連邦政府側の勢力で、TPLFではなかったと証言している。

 アムネスティの調査員フィセハ・ティクレ(Fisseha Tekle)氏は、マイカドラとウム・ラクバで語られた証言はいずれも真実の可能性があると指摘した。民族間の報復の連鎖によって、紛争の悪化に歯止めが利かなくなる恐れが浮き彫りになっている。(c)AFP/Robbie COREY-BOULET, with Abdelmoneim ABU IDRIS ALI in Um Raquba refugee camp