【11月27日 東方新報】中国の「水の巨人」と呼ばれたミネラルウオーター最大手「農夫山泉(Nongfu Spring)」の創業者、鍾睒睒(Zhong Shanshan)氏がついに、中国の富豪ナンバーワンとなった。今年9月8日に公募価額21.15香港ドル(約282円)で香港市場に上場した農夫山泉の株価は、11月17日の終値は44.2香港ドル(約592円)に達した。

 同社の株を約84%保有している鍾氏の保有資産は587億ドル(約6兆1218億円)になったと米国の通信社、ブルームバーグが推計している。アリババの馬雲(ジャック・マー、Jack Ma)氏や、テンセント共同創業者の馬化騰(Pony Ma)氏たち大手IT企業の経営者を抜いて、鍾氏は中国富豪ランキングのトップ、世界富豪ランキングで17位となった。

 中国メディアによると、1954年、浙江省(Zhejiang)に生まれの鍾氏の名前「睒睒」は、輝くという意味で、「輝いてほしい」という両親の願いが込められて付けたものだという。鍾氏の両親はともに知識人で、反右派闘争や文化大革命で職場を追われるなど迫害を受け、その影響で小学校五年生の時からほとんど学校に行けなくなった鍾氏は、建設現場で日雇い労働者として働くなど苦労を重ねた。大学受験も二度失敗した。通信制大学に入り卒業後、新聞記者を経て1988年に健康食品の販売会社を創業した。

 中国の高度経済成長に伴い、健康食品のニーズが高まった背景を受け、会社は大きく成長した。「次の時代はミネラルウオーターだ」と判断した鍾氏は1996年に「農夫山泉」を創業した。自然との共生を訴え、テレビのコマーシャルで「農夫山泉はちょっと甘い」のキャッチフレーズにして「上質でおいしい水」とアピールしたことが奏功した。瞬く間に中国を代表する水のブランドとなった。

 浙江省千島湖(Qiandao Lake)、湖北省(Hubei)丹江口市(Danjiangkou)など水源の良いところから採水していることから、環境への影響などを懸念されたこともあったが、批判を乗り越えて成長し続けた。果物ジュースの「農夫果園」シリーズなど商品も次々と開発した。数年前から発売した「樹葉無糖茶」シリーズは「史上最もまずい飲み物」とインターネットで批判されたが、逆に「健康に良い」というイメージが定着し、売り上げは伸び続けている。

 今年は新型コロナウイルスのまん延に伴い、売り上げ減などの一定の影響を受けたものの、ほかの業種と比べて業績が安定している。最近、株価が高騰している理由として、将来性が不透明なIT産業などと比べて、中国全国で大きな販売網を持ち、確実に売り上げを伸ばし続けたところが評価されたと分析されている。

 2016年からニュージーランドで子会社を設立し、世界進出をはじめた農夫山泉は、香港市場に上場した際、「グローバル的な競争に参加できる企業」との目標を発表した。「中国のコカ・コーラ(Coca-Cola)を目指している」と同企業の関係者が明かしている。(c)東方新報/AFPBB News