【11月29日 東方新報】「今日から銀行やめますか?」 ——そんなタイトルのコラムが中国のSNS微博(ウェイボー、Weibo)に投稿され、ネットで話題となっている。すでに9675万回以上閲覧され、1万9000のコメントリンクがはられた。筆者は2年前に一流大学卒業後、国有大銀行の広州支店に配属された元女子銀行員。銀行員であることのつらさを切々と訴えるそのコラムは、同世代の銀行員の間で広い共感を呼んだのだった。寄せられたコメントの中には、自分も銀行をやめようか悩んでいる、といった発言もあり、今の若者たちに銀行職が決して人気の職業でないことを浮き彫りにしている。

「銀行はまるで城壁に閉ざされた城下町のような職場で、城門外の人は入りたがるが、城門内の人間は外に出たがる」とコラム筆者は語る。最近、中国で銀行を辞める若者が増えている、と中国青年報(China Youth Daily)は報じている。この2年の間で、新入行員の離職率が50%をこえた銀行もあると南方週報は関係者のコメントを報じている。なぜ銀行を辞めたい(あるいはやめてしまった)若者が増えているのだろう。

 いくつかの中国メディアが銀行員をやめようとしている若者、あるいは銀行員をやめた若者を個別に取材していた。くだんのコラム筆者は、銀行系ETCカードの販売ノルマをこなすために連続4週末の休日を返上してガソリンスタンド前に立たされたことや、一日中、コップ一杯の水も飲む暇もないカウンター業務の厳しさや、銀行周囲の植え込みの剪定作業まで命じられる雑務の多さに対する不満をぶちまけていた。映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート(The Wolf of Wall Street)』に登場するようなバンカーこそが銀行員だと思っていたが、実際はただの「サービス業」だった、とその失望をにじませている。

 ほかにも、金融商品販売のノルマ達成のために、接待で吐くほど酒を飲まされることや、家電や酒、月餅などをもって顧客参りをする苦労、毎月のようにある昇進試験などのプレッシャーに耐えきれないと訴える新入銀行員もいた。

 ストレスが多い職場のせいか、パワハラなどの問題も多く、今年8月に厦門国際銀行(Xiamen International Bank)北京中関村(Zhongguancun)支店で、上司の酒の強要を新入行員が拒否し、怒った上司がその新入行員を暴行した事件は警察も出動する大スキャンダルとして報道された。

 銀行員といえばかつては、「金の飯わん」に例えられる憧れの職業。高い給料を定年まで約束され、定年退職後も厚い福利厚生を約束された究極の安定職のイメージだった。だが、最近は、そんなイメージも地に落ちている。

 そのきっかけになったのは、2016年。中国四大銀行(中国工商銀行<ICBC>、中国建設銀行<China Construction Bank>、中国銀行<Bank of China>、中国農業銀行<Agricultural Bank of China>)が一斉に行った計2.5万人の大リストラだ。大リストラはその後も続き、中国の銀行業界の衰退を印象づけていた。実際、銀行業界は全体的に経営悪化、システミックリスクにさらされていると指摘され続け、10年ほど前からボーナスもさほどなく、給料も減り続けている。

 ネット金融、フィンテック界の台頭による圧力も大きく、2020年上半期のA株上場銀行36行の給与は計4008.4億元(約6兆3524億円)。前年同期より5.9億元(約93億円)減った。国有六大銀行の中で、中国郵儲銀行(Postal Savings Bank of China)の給与カットはひどく、一人あたり上半期平均収入12.05万元(約194万円)で前年同期比13.8%減という。交通銀行、建設銀行はそれぞれ6%減。上場商業銀行の平安銀行(Ping An Bank)の上半期の一人当たり平均収入は30.06万元(約476万円)で前年同期比10.31%減。給与だけでなく、住宅手当や休日出勤手当など福利厚生もずいぶん削られたという。入行1〜3年目の新人銀行員の年収は今やわずか10万元(約158万円)ほどという。

 さらに今年は年初から新型コロナウイルス感染症の影響で、ほとんどすべての銀行の利益が急減している。今年上半期の銀行業の平均純利益は10%ほど落ち込み、中でも交通銀行は14.61%も純利益が落ち込んだ。今年上半期の銀行金融機関が処理した不良債権は1.1兆元(約17兆4316億円)で前年同期より1689億元(約2兆6765億円)増。予想される信用損失の原則に従うと、減損引当金は1.3兆元(約20兆6009億円)で前年同期比34.4%増という。

 若い銀行員たちは減っていく給料と、先輩行員の受ける容赦ないリストラ圧力、そして過酷なノルマや業務の多さ、パワハラやモラハラの多さに幻滅し、中国銀行業界の未来に希望が持てずに、銀行を去っていくのだった。

 一世代前までの人々が銀行職に憧れた理由は、まず銀行が国有企業であり、「体制外」の職業と比較すると、安定し、一種の特権階級の地位が約束された。つまり家族親戚友人たちのために便宜を図ることもある程度、許されていたのだ。だが、そうした特殊地位は、就職がかつての党による「分配(割り当て)」であった時代の名残であり、今の新しい職業選択理念をもつ若者にはとってはなんら魅力ではない。何より今の銀行はかつてよりずっと厳しい規律規範やノルマを求められ、行員がうっかり特権階級的なうまみに手を出すと、汚職だと告発されて一生を台無しにしかねない。

 ちなみに銀行を辞めた若者たちはどこにいくのだろう。彼らの中には、ネット金融業界、フィンテック業界を目指す人も少なくない。また、世界最大手転職エージェント企業が発行する「2018年中国金融科技就職リポート」によれば、ビッグデータ、AI、リスク管理が目下、中国の一流人材の若者が集中する三大職業らしい。(c)東方新報/AFPBB News