【11月26日 AFP】1986年のサッカーW杯(World Cup)メキシコ大会、アルゼンチンとイングランドの準々決勝で主審を務めたチュニジア人のアリ・ビン・ナセル(Ali Bin Nasser)氏は、この一戦で有名な2ゴールを挙げたことで知られ、25日に亡くなったディエゴ・マラドーナ(Diego Maradona)氏を「天才」とたたえた。

 元審判のビン・ナセル氏は、マラドーナ氏の有名な「神の手ゴール」については正当性を疑っていると認めたが、この試合における同氏の2点目は「傑作」だったと述べた。

 フォークランド紛争(Falklands War)から4年後のメキシコ大会、政治色が強いカードとなった準々決勝の51分に、マラドーナ氏はイングランドのGKピーター・シルトン(Peter Shilton)氏にジャンプで競り勝つと、パンチしたボールはゴールに吸い込まれ、これがアルゼンチンの先制点となった。

 チュニジア人審判として初めてW杯の準々決勝を裁いたビン・ナセル氏は、AFPに「手は見えなかったが、怪しいとは思った」と話した。

「写真を見れば分かるが、副審だったブルガリア人の(ボグダン・)ドチェフ(Bogdan Dochev)に助言を仰ぐために下がると、正当だと言われたから得点を認めた」

「やるべきことをやったが、困惑もあった。ドチェフは後になって腕を2本見たと指摘し、それがシルトンのものかマラドーナのものか分かっていなかった」 

 マラドーナ氏はこの後、ハーフウエーラインから華麗なドリブルを披露すると、ファウルで止めようとする5人の選手を抜き去り、最後は無人のゴールにシュートを流し込んだ。後に「世紀のゴール」とたたえられた一撃でリードを2点に広げたマラドーナ氏はチームを準決勝に導き、結局この大会はアルゼンチンの優勝で幕を閉じた。

 イングランドのギャリー・リネカー(Gary Lineker)氏に1点を返されたため、決勝点となったこのゴールについて、ビン・ナセル氏は「マラドーナへの危険なファウルに笛を吹く準備はできていた」と回顧した。

「50ヤード(約45メートル)仕掛けた後、イングランドの選手に倒されると思った」「あの傑作の一部になれたのは誇りだ」 (c)AFP