【11月29日 東方新報】北京市内に10月下旬にオープンした「お年寄りのおもちゃ屋さん」が、あっという間に高齢者のたまり場として大人気となり、中国メディアの注目を集めている。中国は近い将来、超高齢化社会に突入するため、「老後の過ごし方」への関心が高まっている。

 店は北京市郊外の通州区(Tongzhou)で10月25日にオープン。180平方メートルの店舗に400種類のおもちゃやゲームが並ぶ。ブリキのおもちゃ、投げ矢、コマ、知恵の輪、トランプ、パズル、木馬など懐かしい遊び道具が勢ぞろいしている。店舗外の広場にはブランコやゆりかご、車タイプの四輪自転車があり、屋外で童心に帰ったような遊びもできる。

 本棚には子ども向けの絵本。今年で75歳を迎える男性が絵本をめくりながら、「ああ、これは子どものころに読んだ本だ。懐かしいねえ」と喜びの声をあげる。孫娘を連れた女性は、ぜんまい仕掛けの、ブリキのカエルのおもちゃを買ってあげて、一緒に遊んでいる。

 営業時間は午前9時から午後9時まで。お年寄りが長居するのも歓迎しており、閉店間際までにぎわっている。61歳の男性は店にあるボクシングのパンチングボールに30分間熱中し、その後は投げ矢に夢中となった。夕飯後に毎日来るという70歳の女性はセーターを編みながら「ここにいると本当に落ち着くよ」と話す。

 店主の宋徳竜(Song Delong)さんは「先進国では高齢者向けのおもちゃ市場やお年寄りが過ごす居場所がありますが、中国ではまだ見当たらないので、試験的に店を始めてみました」と話す。1日に売れるおもちゃは20個ほど。試験営業の段階で、家主のサービスで賃料は数か月無料という。店が軌道に乗れば、リタイアしたお年寄りを従業員に雇うつもりだ。北京市役所の支所も注目しており、職員と宋さんの間で「地域のお年寄りを集めて、室内ゴルフ大会をやろう」と計画が進んでいる。

 北京市は中国の中でも平均寿命が高く、同時に高齢化率が極めて高い都市だ。

 2019年の中国の平均寿命77.3歳に対し、北京市の平均寿命は82.3歳。一方、中国全土で60歳以上の人口は全体の2割弱だが、北京市は26.3%を占める。北京市で15~59歳の労働力人口と60歳以上の人口を比較すると、2.3人の働き手が1人の高齢者を支えている計算となる。

 世界保健機関(WHO)によると、中国の65歳以上人口が全体に占める割合は2018年で11.9%だが、2050年には推計で27.6%の超高齢化社会に突入する。中国全土が、今の北京市をも上回る「高齢国家」となる。行政の施策や社会保障の充実にも限界がある。そこで、心身の健康を維持するための「居場所作り」が課題となっている。

 中国の都市部では、定年を迎えたお年寄りが路上にいすを出して長々と茶飲み話をしたり、公園にある健康維持用の遊具で体を動かしたりする光景をよく見かける。ただ、社会の急激な変化により地域の結び付きも希薄になる傾向がある。また、中国では伝統的に「子どもが親の面倒を見る」意識が今も強く、社会全体で高齢者をケアしていく態勢は発展途上にある。そんな中、「お年寄りのおもちゃ屋さん」のような取り組みは、高齢者が自ら集まり、刺激を受ける新しい拠点として注目されている。

 2050年、世界で最も65歳以上人口の割合が高い国は、日本(推計36.3%)だ。高齢化への取り組みは世界共通の課題で、各国が「高齢者が元気になれる居場所」のモデルを提示しあう時代となっている。(c)東方新報/AFPBB News