【12月12日 AFP】東京のあるクリニックで、白衣を着た女性が新規患者の様子を詳細に注意深く記録している。患者は、羊のぬいぐるみだ。

「杜の都なつみクリニック」は、ぬいぐるみを「治療」し、元来の姿に戻す専門院。ぬいぐるみに深い愛情を注ぐ持ち主たちを喜ばせてきた。「ユキちゃん」と名付けた羊のぬいぐるみを持ってきた加藤唯(Yui Kato)さん(24)もその一人だ。「ぼろぼろでもう捨てるしかないと思っていたら、病院があると聞いて」訪れたという。

 院長の箱崎菜摘美(Natsumi Hakozaki)さん(34)によると、このクリニックでは「目の手術」から植毛、けがの縫合まで、幅広い治療を行っている。

 箱崎さんは4年前、故郷の仙台でぬいぐるみの修理を始めた。当時働いていた衣服のリフォーム店で、大切なぬいぐるみを修理できないかという問い合わせを受けることが少なくなかったからだ。

 箱崎さんによると、来院する持ち主はぬいぐるみを単なるモノではなく、自分の家族やパートナー、あるいは親友のように考えている。「(直して)渡すときも、わー良かったねって、抱きしめて喜んだり泣いたりしている姿をたくさん見てきた」という。

■魂を移す

 クリニックでは羊のユキちゃんが泡風呂につかる様子を撮影し、「だいぶお疲れがたまっていたようです!ごゆっくりどうぞ~(*´▽`*)」とキャプションを付けて、ホームページに掲載した。

 ユキちゃんはかなりくたびれていたので、ほとんどゼロから作り直すような作業が必要だった。泡風呂のおかげで形が戻った生地を使って、箱崎さんは新しい生地用の型紙を作る。新しい生地を縫い合わせたら、中綿も新しいものを入れる。

 完全に新しいユキちゃんということになるが、一つ例外がある。「こころハート」といって、元の中綿をピンク色のガーゼにくるみ、心臓にあたる部分にしまうのだ。箱崎さんはこれを、ぬいぐるみの「魂」を新しい体に移す方法と考えている。

 箱崎さんは2年前にクリニックを東京に移し、現在は5人の「医師」と共に毎月100体以上のぬいぐるみを「治療」している。現在1年待ちの状態だ。

 羊のユキちゃんの治療費は10万円。「お金より思い出の方が自分の中で比重が大きいので、後悔はしていない」という加藤さんにとって有意義な使い方だった。「夜寝るときにユキちゃんに話かけて自分の心を整理したり、(ユキちゃんに)向かって泣いたりしていた」