【10月28日 東方新報】中国明末の文人画家・呉彬(Wo Bin)の幻の名作「十面霊璧図巻」が北京・保利拍売十五周年のオークション会に出品され、5.129億元(約80億円<コミッションこみ>)で落札された。この作品がオークション会場に登場したのは31年ぶり。31年前も衝撃的な高額で落札され話題となったが、今回、中国古代書画の落札額記録を大幅更新し、本年度世界で最も高額な中国古美術品となった。

 オークションは1億元(約16億円)からスタート。すぐに2億元(約31億円)に値がつりあげられると、数分後には3億元(約47億円)。スタート約40分後に4.46億元(約69億円)で落札され、15%のコミッションを加えた5.129億元で引き渡された。

 この価格は、中国古代書画としては世界記録を更新したことになり、また単体の中国古美術品としても最高記録となった。

 呉彬は明代の宮廷画家で、画芸のほか詩文の才能もあった当時のマルチタレントな芸術家だ。明末の変形主義画風、北宋古典山水画風の復興を提唱した指導者のひとりで、奇怪で幻想的な画風で知られる。この「十面霊璧図巻」は呉彬の1610年の作。作品の画心は幅55.5センチ、長さ11.5メートル。引首を合わせると28メートル。

 当時、奇石・奇岩を愛好する書画家、米万鐘(Bei Wanzhong)が南京市(Nanjing)六合県(Liuhe)で、美しい奇石を見つけ、それを親友画家でもある呉彬に見せると、十幅の図に描いたという。図は、奇跡を実物大で異なる十の角度から描いている。中国の伝統的な水墨画法のほか、幾何学的な原理や音律リズム、五行説などの古今東西の独創的なエッセンスを集約した作品で、「400年前のコンセプチュアルアート」とも形容されている。

 米万鐘は出来上がった作品を喜び、当時の画壇の領袖(りょうしゅう)である董其昌(Dong Qichang)、陳継儒(Chen Jiru)、李維禎(Li Weizhen)、元内閣首輔の葉向高(Ye Xianggao)たち親友に見せ、題と跋文(あとがき)を書いてもらい、図巻に仕上げたという。その芸術性、創造性、思想性、歴史的価値は唯一無二、確かにこの落札額に相当するといえよう。

 清朝に入り、この図巻は百年秘蔵された後に海を渡った。

 世間にこの図巻の存在が再び知られるようになったのは1989年12月。ニューヨークのサザビーズのオークション会場に登場し、121万ドル(約1億2689 万円)で落札された。これは競売大手サザビーズ(Sotheby's)における中国書画として初めて100万ドル(約1億円)を突破した落札額だった。その31年後、再びこの作品がオークションに登場、その記録を塗り替えたのだった。

 このオークションにあたり、保利芸術博物館では「十面霊璧図巻」が展示され、古美術ファンたちは30年ぶりにこの幻の名作全体を間近に目にすることができた。

 北京保利オークション古代書画部の范長江(Fan Changjiang)社長は「将来、再びこの作品がオークション会場に現れたときは、さらに落札額は記録を更新しているかもしれない」と話している。

 北京保利のこのオークションは、新型コロナウイルス感染症発生後初めてのオフラインのオークションで、「十面霊璧図巻」の高額落札のニュースは、コロナで落ち込んでいた古美術書画市場の振興に大きく貢献すると、業界は期待している。(c)東方新報/AFPBB News