ネット医療動画に注意! 偽医師による宣伝も
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【10月15日 東方新報】近頃、中国で注目を浴びている「網紅医師」。直訳するとネットで人気者の医者。動画サイトで、大衆にわかりやすい言葉で科学的医療知識(通俗科学)を解説するような医療動画をアップし、ユーザーの医療相談などに応じてフォロワーを増やしている医師たちのことだ。
だが彼らの医療アドバイスをやみくもに信じることは危険だと最近、中国の専門家たちが声をあげはじめている。例えば、済南協和肝病医院の王海峰(Wang Haifeng)医師は、動画サイト上でフォロワー200万人を超える網紅医師の代表格だが、「花さんしょうにしょうがを加えたものを服用すると便秘と車酔いに効く」「花さんしょうに酢を加えたものは歯痛を緩和する」「花さんしょうに塩水を加えると、湿気とかっけがなくなる」など、彼が動画で紹介する処方箋には怪しげなものがおおい。
北京天壇医院薬学部の趙志剛(Zhao Zhigang)教授は中国メディア上で、「もしこうした処方箋をやみくもに信じた場合、治療が遅れる可能性があり、深刻な結果をもたらしかねない。例えば歯痛も、適切な治療が遅れると、歯肉炎や歯髄炎など口腔(こうくう)内の重大な疾患を引き起こしかねないし、ひょっとすると心筋梗塞の前兆かもしれない。数粒の花さんしょうをかむだけで済ませることはできない」と警告した。
ほかにもフォロワー500万人の「小西医師」は皮膚疾患の処方箋を推奨する動画が人気を博している。「毛嚢炎の治療にはフシジン酸ナトリウム軟こうがよい」「単純なヘルペスはアシクロビルの錠剤で治る」「ハルシノニド溶液は異汗性湿疹に効果がある」などと紹介しているが、北京世紀壇医院(Beijing Shijitan Hospital)の薬剤科の孫路路(Sun Lulu)主任は、「皮膚疾患は単に動画を自分でみて薬を使うことはできない」「湿疹があらわれたなら、医師が実際に見て具体的な判断をしないと、適切な治療方が見つからない。帯状疱疹(ほうしん)であれば、治療は外用薬だけでなく内服薬も必要だし、短い動画を見てわかるほど簡単ではない。ましてや、ステロイド剤など厳格に使用量をコントロールする必要のある薬を、勝手に長期に乱用すれば、皮膚をひどく傷つけ、回復に非常に長い時間が必要になる」と指摘する。
フォロワー500万人の山東中医薬大学(Shandong University of Traditional Chinese Medicin)第二付属医院の「静静医師」は、離乳期について動画のなかで「離乳期は母乳から粉ミルクに、粉ミルクから離乳食に移行する過程であり、すべての赤ん坊が経験するプロセス。一番よいのは1歳ごろに離乳すること」と語っているが、国家衛生健康委員会が編さんする「乳幼児の栄養健康教育核心情報」の中では、補食を加えつつ、母乳を2歳以上まで与え続けることが推奨されている。1歳で離乳するべきだという根拠はない。
問題は、これら医師が企業宣伝に加担していることだ。静静医師は動画で、ブランドの粉ミルクを推奨したり、マタニティグッズを紹介したりしている。金もうけのために、こういった発言をしているのではないか、と疑いの目が一部ネットユーザーから向けられている。
こうしたネット医師たちの中には偽物もまじる。
「都市健康説」のアカウントが投稿する医療動画は260本あるがその中で、「河南省(Henan)健康センター主治医」と肩書がある白衣の医師が登場する。だが、そのようなセンターは実在していなかったことが、のちにメディアの取材で判明した。
別の動画に登場している李孟麗(Li Mengli)医師は、実は医師ではなく、彼女が経営する「診療所」も、医薬品を取り扱う資格がなく、医薬品管理法違反で2018年7月に行政処分を受けていたのだった。彼女はこの動画で、猿の腰掛や、菊花茶、桂圓紅棗枸杞茶などを宣伝し、普通のネットショッピングで買うよりも数倍の値段で販売していた。
前出の孫路路副主任によれば「薬の処方はもっと慎重に行うべきものだ」「薬の用法、投与量、時間も厳格であるべきだし、そうしないと必ずリスクが伴う。もし慢性病などがあれば、高血圧の薬だって、人によって違う処方になる。また長期の薬の服用には必ず定期的な観測が必要で、薬の調整の判断が必ず必要だ。一部の人は、中医薬は相対的に効き目が緩やかだと思っているようだが、実際、中医薬は弁証的な治療法で、千人一律の処方はない。こうした動画を見るときは、絶対うのみにしてはならない」という。
こうした医療動画の急増の背景には、新型コロナウイルス感染症のまん延で、外出もままならず、不安を募らせている人々が、医療情報を欲していたこと、また新型コロナ肺炎を機に、医療産業のデジタル化が進み、インターネットをつかったオンライン医療、リモート診療モデルが推進されたことなどがある。医療従事者側も、難解な医療知識をわかりやすい言葉で大衆に広める必要性を感じており、当初こうした医療動画は公衆衛生のレベルアップのために必要だととらえる意見もある。だが、最近の「網紅医師」の粗製乱造ぶりには、さすがに医学界も危機感を持ち始めたようだ。
ネットを使った医療情報の発信は、まずは受けてのネットリテラシーが育っていなければ、むしろ害悪になりかねない、といえそうだ。 (c)東方新報/AFPBB News