【10月11日 AFP】精神上の健康問題に捕らわれているラウフさん(40)を世話する人々が唯一できたことは、横たわるスペースもないほど狭くむさ苦しい小屋に一日中、彼を押し込めることだった。

 精神障害者のための適切な環境の不足を補う道具として、南京錠や足かせ、鎖などが使われるのはインドネシアに限ったことではないが、世界で4番目に人口の多い国ではこれらが頻繁に使用されている。

 さらに問題を深刻化させているのが、新型コロナウイルスの流行だ。いったんは症状が緩和し、投薬治療や手厚い看護を受けられるようになり自由を得た多くの人々が今、強制的に鎖につなぎ直されている。

 何十年間も拘束されていたラウフさんは、ほんの数年前にようやく自分で自由に歩き回ることを許された──好きな場所としていつも向かっていたのは、混み合った市場だ。

 しかし、新型ウイルスのせいで、昔のやり方への逆戻りを余儀なくされた。ラウフさんは再び、裏庭の窮屈な小屋に閉じ込められた。食事、睡眠、排せつ、すべてをするのはこの中だ。

 新型ウイルスの感染状況は「悪くなっている。ラウフに感染してほしくない」。西スラウェシ(West Sulawesi)州ポレワリ(Polewali)でラウフさんの世話をするおばのハスニさんは言った。

 ハスニさんは、新型ウイルスによるロックダウン(都市封鎖)の影響で、ラウフさんの投薬治療が制限されてしまわないかとも心配している。また、ラウフさんが自分自身や周囲の人々を傷つけてしまうのではないかとも恐れている。

■コロナ禍で逆行

 精神障害のある人々の監禁や拘束は、かつてのインドネシアでは一般的に行われていた。世話ができない家族や、適切な治療を受ける金銭的余裕のない家族は特にそうだった。バリ(Bali)島の美しい村で、木に鎖でつながれている人がいるのを見て驚く外国人観光客もいただろう。

 その後、全国的なキャンペーンもあって、何千人もの人々がより良いメンタルヘルス治療と投薬を受けられるようになり、状況は一変したと専門家らは思っていた──新型コロナウイルスが流行するまでは。

「これはインドネシアを含め、世界の多くの国で起こっているパンデミック(世界的な大流行)による悲劇だ」というのは、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)で障害者の権利を専門とする上級研究員、クリティ・シャルマ(Kriti Sharma)氏だ。

 HRWは10日の「世界メンタルヘルスデー(World Mental Health Day)」に先駆けて、報告書「くさりにつながれて生きる:世界各地で身体を拘束される精神障がい者(Living in Chains: Shackling of People with Psychosocial Disabilities Worldwide)」を今月6日に発表した。精神障害があり、何年も閉じ込められている数十万人について記録した報告だ。中にはわずか10歳で監禁された子どももいる。

 インドネシア保健省は精神障害者として約30万人を登録している。その中で今年1~6月の間だけで報告された「拘束」事例は6000件以上に及び、2019年全体と比べて1000件以上増加しているという。

 同省で精神障害担当部門の責任者を務めるシティ・カリマ(Siti Khalimah)氏は「パンデミックが続けば、この数値は倍増する可能性もある」と指摘する。