冷戦時代の疑心暗鬼が生んだ秘密の地下トンネル、人気の観光地に アルバニア
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【10月17日 AFP】アルバニア南部にある要塞(ようさい)の地下には、共産党政権時代に造られた秘密のトンネル網がある。このトンネル網から見えてくるのは、独裁者エンベル・ホッジャ(Enver Hoxha)政権における「秘密主義」と「疑心暗鬼」の側面だ。
共和制に移行した現在、この地下の軍事用のバンカー(シェルター)は観光スポットに様変わりした。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に流行する中でも、観光客はここを訪れている。
不規則にどこまでも続くこの広大な地下建造物は「冷戦(Cold War)のトンネル」と呼ばれている。独裁政権は40年にわたって続いたが、その間にホッジャ氏は、他国からの侵攻を恐れ、大金を投じて壮大なバンカープロジェクトを推し進めた。
鎖国状態にあったアルバニアの要塞化をより強固にするため、ホッジャ氏は、国中に軍事用バンカーを17万基以上造らせた。その大半はドーム形の兵士の見張り場だった。これらは今でもあちこちで見ることができる。
最も立派なトンネルのうちの一つは、ホッジャ氏の故郷である南部ジロカストラ(Gjirokastra)にある。これは、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産(World Heritage)にも登録されている。
そのトンネル網の全長は1.5キロメートルにも及び、敵国に攻め込まれても軍司令部が使用できるようになっている。全体像を誰も把握できないようにするため、建設作業はシフト制で秘密裏に行われた。
■独裁政権時とは違う制限
新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)はアルバニアの観光シーズンにも大きな打撃をもたらした。それでも、マスクをした観光客数百人がこの夏、ジロカストラのバンカーを訪れている。
パリから来たというコンピューターエンジニアのアレクサンドルさん(39)もその一人だ。アレクサンドルさんはバンカーを訪れて、現在のコロナ禍について考えを巡らせているという。「私たちは今、互いに触れ合う自由、話をする自由、会う自由が制限されている」。ただ、ホッジャ氏による独裁政権時と違うのは、「現在の制限は正しい判断の下で行われている」ことだと、アレクサンドルさんはAFPに語った。
元兵士のアストリト・イメリ(Astrit Imeri)さん(67)によると、トンネルは、多数の核シェルターの他、軍司令部、秘密警察、検察官の執務室、裁判所を結んでいたとされ、その他にも通信傍受のためのスペースや宿舎、製パン所、水貯蔵タンク、さらには敵の侵入に備えたカラシニコフ(Kalashnikov)銃やトカレフ(Tokarev)銃の保管所も設けられていたという。
共産主義政権が崩壊してからは、バンカーの大半は放置され、一部は略奪の被害にも遭っている。しかし、最近では、一風変わったカフェや倉庫、ホームレス向けの住居に改修されているものも見られるようになった。(c)AFP/Briseida MEMA and Emmy VARLEY